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前 種付けゆっくり・後編 ここは山の中腹にある草原。ここは山のゆっくり達が集い、思い思いにゆっくりと過す、いわゆる「ゆっくりプレイス」である。 ゆっくりは仲間達と追いかけっこをしていたり、歌ったり、草原の草花に舌鼓をうったりと楽しく過している。 「ゆっくりしていってね!!」 「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」 ゆっくり達はお決まりの挨拶の後、親愛の証として頬擦りをする。 その中の1匹がまりさであった。 「きょうもなかよくゆっくりしようね!!」 「「「「そうだね!ゆっくりしようね!!」」」」 まりさは幸せであった。最高のゆっくりプレイスで、大好きな仲間達と思う存分ゆっくりする。 まさにゆっくりらしい生活である。まりさは死ぬまで存分にゆっくりできると思っていた。 それは他のゆっくり達も同じである。 今日も夕方まで思う存分ゆっくりとし、夜になったらぐっすり寝る。そしてまた次の日にゆっくりする。 それだけで幸せだった。しかしそう上手くいかないのがゆっくりであった。 朝、いつもの様に目が覚める。いつもの様な心地よい朝だ。しかしその日は少し違った。 「ゆぅぅ・・・きょうはいつもよりねむいよ・・・!」 しっかり寝たはずなのに寝不足である。それもそのはず、このまりさは昨晩虐殺お兄さんに連れ去られ 改造されたまりさなのである。 まりさは寝たりなかったが、いつも通りにゆっくりプレイスでゆっくりと過す事にした。 「きょうもいちにちゆっくりしていってね!」 「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」 いつもの通り仲間達とゆっくり過すまりさ。しかし眠気のせいかいつもよりは元気が無い。 「むきゅん・・・どうしたの?まりさ。どこかいたいの?」 「だいじょうぶだよぱちゅりー!ちょっとねむいだけだよ!」 「まりさのげんきがなかったからしんぱいしたじゃない!・・・か、かんちがいしないでよ! ありすとかいはだからともだちのしんぱいをするのはとうぜんでしょ!!」 「なにもないならあんしんしたよ!ひきつづきゆっくりしていってね!」 「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」 まりさは引き続きゆっくりした。しかしどうしても疲れが取れない為、夕方前に帰ることにした。 「ゆゆ~・・・きょうはどうしてもねむいからいえにかえってゆっくりねることにするよ!」 仲間のゆっくり達は残念そうだが、無理やり引き止めるのも悪いのでまりさを見送った。 「きょうははやくかえるけど!あしたはもっとゆっくりしようね!!またね!!」 「「「「またゆっくりしようね!!」」」」 挨拶を済ませるとまりさは巣に戻った。 少しゆっくりしようとも思ったが、眠くてしょうがない為餌を軽く食べてすぐに眠った。 朝 「ゆっくりよくねたよ!!」 昨日の疲れが嘘の様に取れていた。その為まりさはまたいつも通りにゆっくりプレイスでゆっくりと過した。 「きょうもなかよくゆっくりしようね!!」 「「「「そうだね!ゆっくりしようね!!」」」」 普段通りのまりさの様子を見て、皆安心して挨拶を返す。 その後はまたいつもの様に夕方までゆっくりと過す。 そしてまたいつもの様に 「またあしたもゆっくりしようね!!」 「「「「またゆっくりしようね!!」」」」 そしていつも通り夜になると眠った。 夜空が白みがかってきた頃、まりさは寝苦しさを覚え目が覚めた。 「う~ん・・・ちょっとあたまがいたいよ!」 といいつつまた寝ようとした時、異変は起こった。 頭に突然激痛が走り、直後めりめりと妙な音が巣に響いた。 「ゆげぇええ!!」 その後体内の餡子が頭の上に吸い上げられる感覚がした。 「あがががが!うげぇえぇぇぇ!!」 まりさは視線を上に向けた。するとそこには大量の蔦が見えた。 数秒程混乱したが、蔦に餡子が吸われているのが分かるとすぐに気付いた。 「な、なんでまりさがにんっしんしてるのぉぉぉおおぉぉ!?!?!?!?!?!?」 まりさは理解できなかった。何故なら今までにすっきりの経験が無かったからである。 夜の内に他のゆっくりにレイプされた形跡もなく、巣の中は寝る前となんら変わり無い。 混乱している最中にも、次々と餡子が蔦に吸われてゆく。 「ぐげげげげ!!!おごごごご!!!・・・」 まりさは白目をむいた。 「ゅっ・・・ゅ゛・・・」 そしてそのまま真っ黒になり朽ち果てた。 20匹分の赤ゆっくりの芽があるだけでもゆっくりにとって危険な上、 通常の3倍程の成長速度のある特製ゆっくりが一気に餡子を吸い上げる。 並のゆっくりでは餡子があっというまに足りなくなり、そのまま死ぬ。 まりさ以外の改造されたゆっくりも、同じ頃に同じ様に朽ち果てた。 そして夜が明けた。 改造された成体ゆっくりは皆つがいが居なかった為、誰の目にも触れずに巣の中で死んでいたが、 改造された子ゆっくりはそうではない。朝起きた時点で家族が見付け、騒ぎ立てた。 「うわぁあああああ!!れ゛い゛ぶのこどもがあああああぁぁぁあ!!」 「おねえぢゃあぁぁあああん!!!!」 などと泣き叫んでいたが、10分もすると 「しんだこどものぶんまでゆっくりするよ!!」 などと言ってゆっくりプレイスでゆっくりしだした。ゆっくりらしく切り替えが非常に早かった。 他のゆっくり達もいつも通りにゆっくししていた。しかし異変は起こった。 昼を過ぎたあたり、まりさの仲間のゆっくり達は妙な倦怠感を覚えた。その直後に体に激痛が走った。 「「「「ゆぎえぇえええっぇぇぇ!!!!」」」」 近くに居たゆっくりが驚き振り返ると、妙な光景が広がった。 そこには頭から大量の蔦を生やしたぱちゅりーとありす、急激に体の膨れ上がったれいむの姿があった。 「「「「ぐえぇぇえええ!うがぁぁああぁぁぁぁあ!!!」」」」 それぞれがゆっくりのものと思えない様な奇声をあげた。 蔦を生やした方のゆっくりは見る見るやせ細っていき、そのまま黒ずんで朽ち果てた。 膨れ上がった方のゆっくりは目玉が飛び出し、口から餡子を撒き散らして朽ち果てた。 3匹のゆっくりが怪死を遂げた為にゆっくり達は大騒ぎしたが、 それでも30分もするとゆっくり達はゆっくりを再開しだした。が、その矢先 「ゆゲぇええエええェェえぇぇッ!!」 ゆっくりプレイスにまた奇声が響いた。 子ゆっくりが子供とは思えない様な奇声を上げたかと思うと、突然膨れ上がり、破裂した。 それを皮切りに他のゆっくり達も奇声を上げ、形を変えた。 先のゆっくり同様にあるものは蔦を大量に生やし、またあるものは急激に膨れ上がり、それぞれ朽ち果てた。 素晴らしいゆっくりプレイスは今や地獄と化した。 ゆっくり達は巣に逃げた。そうしている間もゆっくり達が次々と怪死してゆく。 「ごわ゛ぃよおおおおおお!!・・・おごごごあががが!!」 メキメキベリベリベリ・・・ 「おぎゃあザあアぁぁっぁあぁっあっ!ごがぁぁ!!」 パーン・・・ 「もうやだああああ!おうぢがえぇエぇぇエレエレエレおごォぁ!!」 グチャ・・・ 快音が響き渡る。しばらくするとゆっくりプレイスからゆっくりが居なくなり、辺りは風の音だけが響いた。 巣に戻ったゆっくり達は安心していた。ゆっくりプレイスにいなければ死ぬ事は無いと考えたからである。 しかしそれはただの思い込みである。 ゆっくり達の巣からは相変わらず快音が響いている。それは昼夜問わず鳴り響いた。 そして数日が過ぎた。 「こ、これは凄い・・・」 村の人々はゆっくりプレイスを見て思わず息を飲んだ。 そこには散乱した餡子やゆっくりの体の一部、真っ黒に朽ち果てたゆっくりの死骸、そしてそれに群がる蟲達。 ここまでうまく行くとは村の人々は思っていなかった。 「どうです?凄いでしょう♪」 満面の笑みを浮かべ、ゆっくりプレイスを進んでゆくお兄さん。 「この近くにドスまりさの巣があります。そこも行って見ましょう♪」 そう言ってお兄さんはっくりプレイス近くの大きな洞窟まで来た。 奥から何やら呻き声が聞こえる。お兄さんは洞窟を進んだ。 「うぅぅ・・・どうしてこんな事に・・・うぐぐぐ・・・」 そこには異様な姿のドスまりさがいた。 頭からは大量の蔦を生やし、胴体は不自然に膨れ上がっている。 なんと植物型と動物型両方のにんっしんをしているのであった。 蔦には推定100匹分以上の芽があり、胎内には推定30匹以上の赤ゆっくりがいる様だ。 お兄さんは 「おい!ドスまりさ!ここで何があったんだ!?」 と心配したフリをしてドスまりさに尋ねた。 「分からないよ・・・みんな急ににんっしんしてそのまま死んじゃったんだ・・・ お兄さん・・・まりさをたすけて・・・」 そう言うやいなやドスまりさは白目を向いて気絶した。 「おい!大丈夫か?起きろ!!」 声を掛けても起きる様子は無い。 そこでお兄さんは洞窟の外に居る村の人々に呼びかけた。 「このドスまりさを運び出します。手伝ってください。」 そういってこのドスまりさを助け出した。 数ヵ月後 「ここはまりさたちがみつけたゆっくりぷれいすだよ!ばかなにんげんはでていってね!」 「うげぇぇええ!!ぎゃあああああ・・・・・・」 「こんなところにいたんじゃゆっくりできないぃぃぃ!!おうちがえるうぅぅぅ!!」 「2度と来るんじゃないぞ!」 「うるさいばか!ゆっくりできないじじいはしね!!」 「ふう、まぁ2度と来れないんだけどな♪」 村のゆっくりの被害は激減したが、それでも別の山のゆっくりは来る。 その為村に侵入したゆっくりには改造手術を施し、野に返している。 「あのくそじじいもどすにかかればいちころだよ!みんなでむらをしゅうげきしようね!」 「「「「おーーーー!!!・・・・・オごご・・・うぐぇぇぇえええ!!!」」」」 ぐちゃり 今日も村は平和である。 ちなみにお兄さんに助け出されたドスまりさは、加工所でゆっくり養殖用として第2の人生を送っている。 「ゆっくりした結果がこれだよぉぉぉおぉぉおお!!!」 めでたしめでたし 「めでたくないぃぃっぃぃいいいい!!!」」 終 読んでくれてありがとうございました。 まだ慣れていない為、見苦しい点もあるかと思いますが、生暖かい目で見てやってください。 このSSに感想を付ける
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前ページ次ページ機械仕掛けの使い魔 機械仕掛けの使い魔 第5話 「じゃあ、まずは自己紹介ね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 キュルケでいいわ」 ベッドに腰掛け、足を組んでいるキュルケ。スタイルも相まって、非常に様になっている。 「で、そこにいるのが私の使い魔、サラマンダーの『フレイム』よ」 「きゅるきゅるっ」 紹介されたフレイムは、ロープにかけて干してある制服の下にいる。尻尾に灯っている炎で、制服を乾かしている。 なかなかに器用だった。 「彼女はタバサ。ちょっと無口だけど、悪い子じゃないの。さっきの件は、私が代わりに謝罪するわ」 そう言って、優雅に頭を下げる。当のタバサと言えば、テーブルを挟んでルイズと向い合いに座り、 カタカタと震えながら俯いて、何やらブツブツと呟いていた。耳を澄ましてみると、 「…射程は解った…今度はその外から…ウィンディ・アイシクルで串刺しに…」 と、物騒極まりない内容である。耳を澄ましたルイズは、タバサに対して震えるのであった。 「洗濯に使ったのは、雨の日に使う部屋干し用の石鹸なので、室内で干しても問題ありませんよ、ミス・ヴァリエール」 シエスタはルイズの傍らに立ち、ニコニコとしていた。貴族たちの会話に参加させてもらっているのが嬉しいのか、 はたまたクロの秘密を聞けるのが嬉しいのか、知るのは本人のみである。 一通りの人間組の紹介が済んだところで、寝そべっていたクロが立ち上がった。 「オイラはクロ。…先に言っとくけど、化け猫なんかじゃねーぞ」 「サイボーグ、だってさ。やる事なす事化け物じみてるけど、妖怪とかじゃないみたいよ」 「「「さいぼぉぐ?」」」 事情を知らないキュルケ、タバサ、シエスタの声が重なる。ご丁寧に頭上には、”?”マークが浮かんでいる。 「見せた方が早いんじゃないの?」「だな」 ここからは、概ねルイズの場合とほぼ同様の展開だった。頭部のぬいぐるみを脱いだ時点で3人とも目を伏せ、 ぬいぐるみを投げ渡されたキュルケのリアクションで、ようやくクロのメタルボディを直視する。…もう、ずっと脱いでた方がいいんじゃなかろうか、とも思えた。 「そう言えばクロ、さっき聞きそびれた事があったのよ」 頬杖を突きながら、ルイズが尋ねる。 「そのゴーって人、何でアンタをサイボーグにしたの?」 「世界征服、だってよ。今じゃすっかり諦めたみてーだけどな」 「「「「世界征服…?」」」」 見事にハモった。驚く者もいれば、呆れる者もいる。要するに三者三様、いや四者四様の受け取り方であった。 「世界征服って…いくら機械の身体って言っても、たった1匹で?」 「いや、オイラの他にも100匹くらいいたぜ。その日の内にほとんど潰しちまったけど」 クロは思案する。あの日叩きのめしたネコ型サイボーグは、一体何匹いたのだろうか。最初の乱闘の時点で、恐らく50匹前後はいたはずだが…。 やめた、数えんのメンドくせぇ。 「あぁ、それでさっき、100匹いるっておっしゃったんですか」 シエスタの疑問が1つ解けた。しかし、やや残念そうなのは、生身の猫が喋る、というワケではなかったからだろうか。 いや、2匹ほどいるにはいるが。 「にしても、アンタ1匹に潰されるって…どんだけ弱いのよ、そのサイボーグたちって…」 「いや、弱くはねーぞ」 「何それ、自慢かしら? 案外かわいいとこあるのねぇ」 妖艶な笑みを浮かべるキュルケ。コイツは本当にルイズと同じ学年なのか…。クロには、とてもそうは思えなかった。 逆にタバサについては、妙に納得出来るものがあったのだが。 「想像してみな? 馬なんかより遥かに足の速ぇ猫が、鋼鉄だって切り裂く長ぇ爪振り回して追っかけてくる。 おまけに水の中でも自由に動けるし、中には空を飛べるヤツもいる」 4人は、クロの言う通りの光景を頭に思い浮かべてみた。そして間を置かず、顔を引き攣らせる。 爪を振り回す、の時点でやや限界を迎えたらしい。タバサに至っては、怨嗟の声をあげる化け猫で想像してしまったようで、誰が見ても分かるレベルで顔を青ざめさせていた。 まだ化け猫を引きずっているようだ。 「ま、そんだけじゃねーんだけどな。他にも幾つか武器使えるんだが、オイラも使える武器だし、その内見せてやるよ…その内、な」 最後に見せたのは、悪役と言っても過言ではない、素晴らしく邪悪な笑顔だった。 一通りの説明――相変わらずかなりの部分を端折ってはいたが――を終えたクロは、「メンドくせーから、後は適当に」とそっぽを向き、自分の身体をいじり始めた。 ドライバーなどの工具がないため、本格的なメンテナンスは不可能であったが、手でやれる部分などはやらないに越した事はない。 その間、ルイズたちはクロについて、あーだこーだと議論を展開していた。 「義手義足ってレベルじゃないわよ、あの猫ちゃん。新種のゴーレムか何か?」 「全身が機械なんですよね…?」 「触ったけど、硬いし冷たいしで、間違いなく、生き物じゃないわね」 「機械の…化け猫…」「化け猫はもういいってば、タバサ」 化け猫ネタを引っ張るタバサを窘るキュルケ。その傍らで、シエスタはクロを眺めていた。 性格は猫そのものだ。説明を始めたかと思えばあまりにも抽象的で、気まぐれに過ぎる。 だけど、シエスタにとっては些細な事だった紅茶の件。そこから解るのは、これまた猫のような義理堅さ。 シエスタの中で、クロへの興味が、枯れることのない泉のように湧き出るのだった。 「そう言えばヴァリエール、さっきのあの音は何だったの?」「音?」 キュルケから投げかけられた質問に、ルイズは記憶を探った。そして、ある一つの出来事に思い至る。 「あぁ…。クロがそのベッド持ち上げた時ね」 「その…ベッド?」「アンタが座ってる、そのベッドよ」 ルイズの指先が示すのは、キュルケが腰掛けている、ダブルベッドだった。 改めて、ルイズのベッドを見てみよう。外見はそこそこ質素だが、天蓋付きで、作りもしっかりとした物である。 彼女一人が寝るには、あまりにも大き過ぎる。重量は、100kgは下らないだろう。 「ちょっと待ってヴァリエール…あの子、コレを持ち上げたの?」 「しかも片手で軽々とね。アンタ…いや、私たち全員が乗ってても、余裕なんじゃない?」 「み、ミス・ヴァリエール…、私たち全員が乗ると、多分300kg前後になるんじゃないかと…」 「クロ、いける?」「さーな」 とぼけてみせたクロだが、実はやれるという確信があったりする。 以前、ミーくんと共に巻き込まれた、ロミオ主催の鬼ごっこ(敗北時は桜町消滅)において、クロは改造車『鈴木GM2』を持ち上げ、大遠投をやってのけたのだ。 しかもこの改造車、大量の武装やブースター(ウルトラミノフスキーマッハエンジン)を搭載しており、恐らくその重量は、軽く1tを超えていたはずだ。 「ま、やってみるわ。さー、乗った乗った」 ちょいちょい、と手を動かして促すクロ。それにしたがって、キュルケを除く3人はベッドに乗った。なぜか、正座である。 ベッドの上で落ち着かない4人。持ち上がるかどうか疑ってはいるが、仮に持ち上がったとしたら…? と言うか、持ち上がったとしたら、本気で怖い。 「そーら、よっと」 「あー…」「ひっ!?」「…!?」「きゃっ!?」 嫌な方向に事実が提示された。クロは、持ち上げてしまったのだ。先程のように、軽々と、女性4人を乗せた天蓋付きダブルベッドを、片手で。 しかも持ち上げている位置がベッドの縁である辺り、重心が作用点からズレていても、何ら問題はないようだ。 ルイズは脱力し、呆けた顔で天蓋を見上げていた。残りの3人は、姿勢を崩し、慌ててベッドシーツにひっ掴まった。クロは、相変わらず涼しげな顔だ。 と言うか、手持ち無沙汰な左手で鼻をほじっている。本格的に余裕らしい。 「降ろしていいわよー…」「あいよー」 気の抜けたやりとりの直後に響くは、寮塔を揺るがす轟音。衝撃は寮塔を震わせるに留まらず、ベッド上の4人を1メイルほど打ち上げた。 マットレスに着地した4人は、何かこう、全てがどうでも良くなってしまっていた。 互いに視線を交わし、その思いが共通のものであることを悟った彼女たちは、そのままベッドに身体を投げ出した。 「ヴァリエール、悪いけど今日はここで寝かせて…」 「気持ちは解るわ、ツェルプストー…今日は特別よ…」 「私も…ここがいい…」 「ミス・ヴァリエール…ごめんなさい…」 間を置かず、寝息の4重奏が始まった。ダブルベッドとは言え、4人で寝るには狭いだろう。 しかし、それすらも気にならない程の倦怠感と疲労が、彼女たちを襲っていたのだった。 「ったく、またかよ…」 呆れ返りながら、クロは窓から夜空を見上げた。 「月が2つ、ねぇ…」 桜町…いや、地球上では絶対にありえない光景だった。だが、クロにとっては驚く事でもない。 偽りの砂漠の大地、偽りの空、偽りの太陽と月。それらに比べて、この月のなんと幻想的な事か。 柄にもなく、クロは月を見上げ、心打たれていたのであった。 「新世界、か…」 タブーが打ち破った偽りの空の向こうに広がっていた、光溢るる新世界。 あの世界を思い出した時、決まってクロの記憶から蘇るのは、タブーを守る1体の戦闘ロボットだった。 サイボーグの体になってから、初めて『本当の名前』を打ち明けた相手。 仮に。仮にアイツが、人々と共に新世界に辿り着いたとしたら…アイツは、死に場所を探すのを諦めただろうか。 …別の道を歩んだだろうか。 「お前は新世界を見たくなかったのか…? なぁ、『バイス』…」 ランプとフレイムの尻尾の炎が揺らめく室内で双月を見つめ、クロは誰に言うでもない…届くわけもない呟きを漏らした。 前ページ次ページ機械仕掛けの使い魔
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人は睡眠中夢を見る。様々な場所に行き、触り、行動をする。それは人により違い、変貌し、気分に崩され‥‥その内容の七変化は、まさに目まぐるしいとしか言えない。 例えば、夢の中で道に落ちていた本を拾ったと仮定する。そうすると、次の日眠った時に夢はどう変化するのか‥‥まず、夢を全く見ないという事が考えられるだろう。はたまた違う夢を見る、という可能性もなくはない。 もしかしたら同じ夢を見る‥‥なんて事もあるかもしれないし、ドラマの様に夢を続きから見る事も出来るかもしれない。 『夢』というのは須く曖昧で、そして矛盾している。見たい物は見れず、見たくない物を見てしまう‥なんて事例が大半だろう。 前者の例えは正月。俗に言う「一富士二鷹三茄子」を指す。その意味は個々でも区々だが、要は正月の夢ベスト3だ。 そのいずれかを見れたのならば、新年最初の目覚めとしては十分に申し分なく、本人の脳は一時、幸福感を味わうのだろう。 しかしそれで盛り上がろうとも、それは大晦日から元旦にかけての一夜に限る話であって、二、三時間もすれば記憶の片隅に、一日もすればそんな夢など、元旦に因んだ豪華な料理や行事等を前に忘却してしまうのがこの世の常なのだ。 そんな些細な占い的出来事に一年を願掛けする事など、過半数の人間にとってはあまりその意味を成さない。 それでもあたしは、この誰が決めたのかすら不明な、日本一の山と攻撃的な鳥と紫の野菜の夢を正月に見ようとして、部屋中に山の写真や鳥の囀りテープや茄子を転がし、眠りに就いた事がある。 それはなぜ?と聞かれても、ランクが付くものは目指すものだ。と、あたしがそう解釈をしているからだ。 この説明で納得出来ない人がいたとしても、あたしには関係ない。そいつに何の興味も持たないし、ましてや解り合おうとも思わない。 そりゃそうでしょ?なぜならば 他人がある芸能人に過剰に入れ込んでいるのを見て、そいつの背中に指を差し「なんだ?あいつ。」と失笑できる事や、そして自分好みの芸能人を小バカにされ、さも自分の全てを否定されたかのように激怒し、または憂鬱になる事と同義だからだ。 結論を言えば、あたしが何事も全力を尽くす、という事に他者の思考が介在する余地など全く持って皆無なのだ。 つまり、他者はあたしを理解できない。そしてあたしは他者を理解しない。それで構わないし、寧ろそれでいい。 後者の例え。世間では『高所から落下する夢は、それとは逆に運があがっている証拠』‥なんて言われているけれど、あたしに言わせればそれこそおかしな話だ。なぜ運が向上してるからといって当の本人が落ちる夢など見なくてはならないのか。 仮にその類の夢がそうなる運命にあるのだとしても、自分が落ちゆく夢など誰一人として見たくはないだろうと思う。 逆に、落ちる夢が見たい!なんていう人がいたとしても、それは余程のスカイダイビングマニアか麻薬中毒者に違いない。 百歩譲って空を飛ぶ事が物理的に不可能としても、夢の‥自分の脳内世界位は、落ちずに飛んでいたい‥とあたしは思う。 それが、たかだか数時間の睡眠だとしても、夢ならば夢らしく‥思うがまま眠りたい‥と。誰でも一度は望んだ事がある筈だ。だから、あたしの願望さえも罷り通らない夢ならば、それは自分の夢であって自分の望んだ夢でなく、見たいとは思わない。 朝の強い光にあたしは重い瞼を開き、鈍る体を起こした。‥‥時計を見る目も虚ろなまま、それを見てさらに倦怠感が増加した。 どうやらまた、あまり睡眠をとる事が出来なかったようだ。それは自分が夜遅くまで物思いに耽っていた所為でもあるが。 未だに寝ぼけた眼を擦りつつ、あたしの不機嫌の根源とも言える「普遍的」な夢の片鱗を思い出して深く溜息をついていた。 だが、ここがある意味『夢』の興味深いところだ。身支度をしたり朝食を摂ったりしていると、夢は脳の片隅に追いやられる。 そしていつしか曇りガラスを被せたように朧気になっていき、最後にはその片鱗すらも跡形もなく忘れてしまうのだ。 現にあたしの思考は学校に移っていて、垣間見たはずの普遍的空想物語は頭の隅からその存在を現す事はなかった。 中学最初の六月も最後の週に掛かり、太陽がその猛威を遺憾なく発揮している。本格的な、夏の到来を感じさせていた。 しかし、熱波を送る太陽も、それにより滲み滴る汗も、纏わりつく湿気も眼中にない程、ある懸案事項に頭を悩ませていた。 それは、忘れもしない‥‥あたしの世界を根底から震撼させた、あの野球場についてだった。 あれから、あたしの価値観は今までのあたしの全てから顔を背けた。いや、正確に言えばあたし自らがそう仕向けたのだ。 あたしはあの時から、あたしがたった一握りの選ばれた存在になるために、何をしたらいいか‥‥その答えを追い求めてきた。 しかし、あれから既にかなりの日数が経過したというのに、あたしの頭は未だにその具体的目標を定めてはいなかった。 辿り着くべき目的地は分かっている。分かっているはずなのに主立った標識も道標も、その影すら掴めないままに、 あたしはただ闇雲に走り回り、躍起になって「普通」や「一般的」という、殆どの人が当てはまるような言葉を拒み続けていた。 七月に入った。周囲の‥特に、精神病に心を煩わせている人間達は、行事に託けて祭りやらデートやらの計画を立て始めていた。 ‥‥そんなクラスメート達を一睨みし、あたしは少し前に見た、あの「夢」を思い出していた。 ‥‥高校生になった自分が、個性溢れる仲間達や想いを寄せる彼と一緒に、目まぐるしい日々を送る‥‥そんな夢を。 普通を拒み、恋愛を精神病と勝手に認定したあたしが、なぜこんな夢を‥‥しかもかなり現実味を帯びた夢を見たのだろう? ふと、その集団の誰かを思い出そうと試みた。だが、やはり夢というのは、曖昧で虚ろな空想なのだろうか。 顔を思い出そうとすればする程に、逆に靄がかかったように不鮮明になり、結果それらは忘却の彼方へ消えてしまった。 太陽の、物理的かつ精神的な波状攻撃は未だやまない。その熱をようやく感知して鈍くなっていく思考回路に、 突如としてイレギュラーな発想が浮かんだ。それはあたしにとって、何の気なしに考えたような些細なジョークだった。 『もしあたしが高校生になった時この夢を覚えていて、もし夢の通りだったとしたら‥‥あたしは予知能力者ね。』 【‥‥何を言ってるの?そんなのはいやしない。いい加減諦めたら?あんたは所詮、一般的な一人に過ぎないのよ?】 そう。ただの冗談だった筈なのだ。しかし、常識的かつ一般的なあたしが、その冗談に過剰なまでの反応を見せた。 怒りを露わにしながらも溜息をつき、嘲笑している。あたしはそれに気付き、慌ててそれを振り払った。 普通や常識を捨てると決意した時点で、あたしのそれは屁理屈と我が儘とで覆されていた。そのあたしに真っ向から反論する。 予知能力がない、とどうして言い切れるの?なんとなく、虫の知らせ、女の勘‥‥そういうのも同じ部類ではないのか。 ‥‥そうだ。そう考えると、宇宙人だって同じ事が言えるじゃない。いないいないと言いつつも、数々の目撃例があるのは何? その殆どが偽造としても‥‥それでも宇宙人を仕立てあげるのは、少なからずいてほしいという願望があるからじゃない。 超能力も同様だ。自ら名乗る人もいる。TVで暴かれたりしてるが、それこそ超能力を隠蔽しようとする三文芝居の様に感じる。 未来や異世界から侵略者、そういった類の者がくる映画を作成している人も、そういう映画を第三者が好むから作るんじゃない。 普通に考えたなら仮想の中の空想よりも、とんでもない妄想の世界に生きる彼等を、あたしは無理矢理に肯定した。 だってそっちの方が面白いでしょ? ‥‥そうだ。一番の根本を忘れていた。あたしは、あたしだけの不思議で奇想天外な面白い事を探し出せばいいんだ。 その考えは、常識的なあたしの前を一瞬通過して、あたしの脳内会議にかかったが、明らかに結果は見えていた。 なぜなら、その考えを思い付いた瞬間、あたしの心臓は歓喜のリズムを打ち鳴らし、胸を踊らせていたからだ。 何から始めたら、どういう行動をとればいいか‥その答えさえ目的地を決めたあたしにとって、足し算を解くより容易な事だった。 そう‥‥いつだってあたしの疑問に対する答えは、このあたし自身の胸にあるのだから。 今日は七夕‥織姫と彦星が天の川を渡り、年に一度の再会を果たす日。人々がベガとアルタイルに己が願いを伝える日。 あたしの願い‥‥それは、あたしという確固たる存在を全宇宙に伝える事。 願いを伝えるが如く、行動を起こす。数日前に考え付いた方法だったが、何とか日没までに準備を整える事ができた事だし。 実行する頃には、太陽が一時の別れを告げながら山の麓に姿を消し、同時に月が何処からともなく顔を出すだろう。 月明かりなんていうものは太陽のそれと比較すると、どこかの大富豪屋敷のホールにありそうな巨大シャンデリアと、電池切れ間際の乾電池を使用した豆電球位の違いがあるからして、辺りは虚しく闇に支配される事になるのだろう。 心臓が少しずつ高鳴っていく気がする。当たり前か。これからあたしは、己が道への第一歩を刻もうとしているのだから。 無闇に歩みを進めてきた日々とは違う。今度は‥‥道の先にはしっかりとした道標が、佇んでいるのだから。 あたしはここで生まれ変わる。奇異の目で見られ悪態をつかれて後ろ指指されても、あたしはこの歩みを絶対に止めない。 あたしは目の前に照らし出されたこの道を、真っ直ぐ、ただひたすらに突き進むだけなのだから。 一枚の紙に書かれた、一般人が見たら記号とも文字とも区別がつかないものに目を落とす。 短冊に収まりきらず、ルーズリーフに書き、校庭に描こうとしているその模様の意味‥‥それは これからの、新しいあたしに必要な、最初の決意。(迷いなどない。) あたしだけの目的地に向かう、最初の一歩。(恐れも感じない。) そして‥‥(ただ‥‥) 全宇宙に対する‥‥最初のSOS。(‥‥誰かあたしに気付いて‥‥) 『私はここにいる』 あたしは空を見上げながら、一人そう呟いた。不意に一筋の煌めきが天の川をよぎり、空の彼方に消えていった。 END
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咲の悩み事 1日目 “愛”って何だろう? “恋”って何だろう? 私は最近よくそんなことを考える。 別にそれは最近読んでいる本が恋愛小説モノばかりだから、とかそんな理由ではない。 その理由は、私に好きな人がいるからである。 私の幼なじみで、言い方を変えると腐れ縁。 毎日毎日「レディースランチが旨そうだから」と言う理由だけで私をお昼に誘う酷いけれど憎めない男の子。 きっと今日もまた誘ってくるのだろう。 「咲ー!」 「京ちゃんっ」 そう、京ちゃんもとい須賀京太郎だ。 「また寝てたのか、咲は」 「もー、今日は寝てないもん」 「そんなことよりさ、咲。今日のレディースランチも旨そうなんだよな、付き合ってくんねーか?」 「それだけのために私を誘うってどうなの。大体優希ちゃんだっているでしょ」 本当に心にもないことを言ってしまったと思う。 最近はいつもこんな感じだった。 きっと自分とは違って積極的にアプローチ出来る優希ちゃんが羨ましいのだと思う。 また、最近京ちゃんは、優希ちゃんばっかりに構ってるからむしゃくしゃしているのかもしれない。 この良く分からない気持ちが「嫉妬」なのかな? それに、優希ちゃんはことあるごとに京ちゃんに抱きついたりアプローチしている。 私も優希ちゃん以上のアプローチをしないと優希ちゃんに京ちゃんを取られてしまうかもしれないというのは分かっている。 だけど、そうは言っても優希ちゃんが普段やっているような大胆なアプローチを自分がやっているのを想像すると、 (顔が熱くなってそれどころじゃないよぅ) 今の私はたとえば京ちゃんと手をつなぐことだってどきどきしちゃってそれどころじゃないと思うし、それ以外だって…… 要するに私は恥ずかしくて思い切ったことが出来ないということなんだ。 ――と、考えていると京ちゃんの 「あいつは和と弁当だろ、誘っても来ないって」 という言葉で現実に引き戻される。 私は、今日は京ちゃんと2人っきりと言う事実に少し嬉しく感じながらも、 京ちゃんの口から出た「和」という単語についてまた考え込んでしまう。 (そうだよね、京ちゃんは原村さんのことが好きかもしれないんだ) ことあるごとに京ちゃんが原村さんのことを見て顔をにやけさせていることに私は気づいていた。 気になる相手のことだからこそ。そしてさらに、京ちゃんが原村さんの大きいおっぱいばっかり見ていることも知っていた。 (きっと、京ちゃんはおっぱい大きい方が好きなんだろうな…… でも、私原村さんみたいにおっぱい大きくないし…きっと私はまだこれからだと思うんだけど………そうだと良いんだけれど…) もしかしたら京ちゃんは大きなおっぱいが好きなだけで原村さんが好きなわけではないのかもしれない。 だけれども、それはそれでおっぱいの小さい私には大きな危機といえた。 ――と、京ちゃんが私の顔をのぞき込んで不思議そうに聞いてきた。 「咲…?どうしたんだ、急に黙ったりして」 「ううん、何でもないよ」 「よし、それなら食堂に行くぞっ」 「あっ、待ってよ京ちゃん!」 「早く来ないと置いてきますよ?」 「むー、私がいないと京ちゃんはレディースランチが食べられないんだよ!」 「おっと、そうだったな……じゃあ行きますか、お姫様?」 京ちゃんがかしこまって手を差し伸べてくる。 「っ~~、ホントに調子良いんだから!」 少し。 少しだけ。 ほんの少しだけ京ちゃんに「お姫様」って呼ばれたことににドキッとしちゃったことは、 ……秘密なんだよ? * 「原村さんは好きな人とかっている?」 部長の「さあ、全国大会まで残すところ1ヶ月よ! 今日も張り切って打ちましょう!」 という言葉で始まった本日の部活も終わって、原村さんと一緒に家に帰っているときに私は思い切って聞いてみた。 本当はこういうことに詳しいのは部長や染谷先輩なのかもしれないけど、 部長は妙に勘がいいし、染谷先輩は家の手伝いがあるって言って部活が終わってすぐに帰ってしまったから聞けなかった。 「す、好きな人ですか!?」 「うん、そう」 「わ…私は宮永さんのこと好きですよ」 原村さんは何故か顔を真っ赤に染め上げて、とても小さい声でまるで絞り出すようにそう答えた。 (違うんだよ、原村さん。その“好き”は友達としての“好き”だから、私が今抱え込んでるものじゃないの) 私は原村さんがそういう反応を返すかもと、予想していたし、だからこそ初めからだめでもともと感が有った訳だけど、 やっぱり頼りにしていた原村さんが見当違いの答をしてきたことに、少しがっかりしてしまった。 でも、私はそれをあからさまに表に出すと原村さんを傷つけてしまうと思ったから心の中でため息をつきつつも、原村さんに返した。 「ありがとう、原村さん。私も原村さんのこと大好きだよ」 * チャプン…… 「はあぁぁ~…」 家に帰って入浴中。そこでも私は悩む。 ……なんか最近私、毎日お風呂の中で悩んでばかりだな、と思った。 それは毎日のぼせてしまうほどで、ついには3日前お父さんに「長風呂はあまり体に良くないんだぞ」と怒られてしまった。 だが今日、明日、明後日はお父さんが出張で家にいないので、心置きなく長風呂する事が出来る。 それは私にとって誰かに邪魔されないで独りで考えることが出来る時間があるということに等しく、とても都合がいいことだった。 …とは言ってもやはりこればかりは何分悩んでも、何時間悩んでも、何日悩んでも、簡単に答が出るものではなかった。 「京ちゃん…私どうすればいいの…」 と、私の手ははいつものように自分のおっぱい、その大きさに少しだけ自信のないおっぱいに伸びて、揉み始める。 初めはゆっくり、撫でるように、ほぐすように揉む。そして私は、その頂点にあるピンク色の突起に触れた。 「んっ……」 まるで微弱な電流が走ったような気持ちよさに思わず声が出そうになって、私は慌ててその声を押し殺そうとするけれど、 すぐに今日はお父さんがいないためその必要はないことに気が付いて、本能に任せることにする。 「ふあっ…………っんあ!」 私は、今自分の乳首を押したり引っ張ったりしているのは京ちゃんの指だというふうに考える。 そう考え始めだした瞬間、体を流れていた微弱な電流はいつしか微弱ではない、今までよりひときわ強いものになった。 だから、私の想像の中の京ちゃんがいじり初めてすぐに私の乳首はとても固く尖り初めていた。 自分でも比べる人がいないのでよくは分からないけれど、きっと感じやすい体質なのだと思う。 「んっ……ふあっ……っあ」 ついには、そろりそろりと私の想像の中の京ちゃんは指を私のおま○こに伸ばす。 そして、その指がおま○こに触れた瞬間、 「んああぁっっ……!!」 今までとは比べものにならないほど大きく強く鋭く、そして何よりも気持ちいい電流が体を駆けめぐる。 私のおま○こはお湯の中でも分かるぐらいに濡れていて、京ちゃんがそこをかき回すと お湯の中なのに私の耳にグチョグチョという、いやらしい音が響くほどだった。 「ふあっあっ、んああっ……きょ、ちゃん…激しすぎるよぅ……っあ!」 今度は京ちゃんは無我夢中で私のおま○こをなめ回している。 お湯の中とかそういうこともお構いなしだった。 舌を挿れたり、クリトリスを吸ったり、私の感じるポイントを狙って攻めてくる。 「ゃやあぁぁ……っ!」 ……やがて、私は自分の絶頂が近づいているのを感じた。 京ちゃんは自分のおち○ちんを取り出すと、私の中に強引に押し込んでピストン運動をする。 十秒ともつことなく、私はすぐに絶頂に達してしまった。 「んあああああああ…………っっっっ!!」 この瞬間、この一瞬だけ私は幸せな気持ちになることが出来る。 しかし、その一瞬が過ぎれば、私と毎日幸せな日々を送っている京ちゃんは消えて、 私の中には果てしない虚無感が残るのみとなってしまう。 「…………京ちゃぁん……」 例え毎晩毎晩、何度自分を慰めてもその想いは満たされない。 そして私は絶頂の後の束の間の幸福感を求めて夜な夜な自慰、オナニーに走ってしまうのだった。 * しばらくして、絶頂後の倦怠感が無くなった私は自分の愛液で汚れてしまったお湯を 捨てて(こういうのってなんか恥ずかしいよね)、パジャマに着替えると自分の部屋に戻った。 ベッドに飛び込んだ私はしばらくぼぅっとしていたが、浮かんで来るのは私の名前を呼ぶ京ちゃんばかり。 『咲、お前また寝てたのか?』 『それでな、咲。レディースランチが旨そうなんだよな』 『咲、お前麻雀出来るの?』 咲、咲、咲―――頭の中で京ちゃんがその名前を呼ぶ。 それは、いつまでも消えることないように思えたが、だんだんと小さくなっていき…遂には消えてしまった。 ――もっと。 もっと私の名前を呼んでほしい。 その力強い低めの声で「咲」って呼んでほしい。 いつの間にか、私は自分の瞳から水滴が零れ落ちるのに気付いた。 私、こんなに京ちゃんのことが好きだったんだ。 幼なじみの男の子。小さい頃からよくお姉ちゃんを入れた3人で遊んでて。 だけど、今まではっきりと自覚したことはなかった。 この気持ちを。 愛を。 私は京ちゃん、須賀京太郎のことを愛している。改めてそのことに気づかさせられる。 ――だけど。 消極的な私が京ちゃんと結ばれるなんて、そんな事は決してないのだろう。 そう思うと余計に哀しくなってきた。 「うっ、うっ……グス…京ちゃん……私、おかしくなっちゃうよぅ……」 私はたまらなくなってそう呟いてしばらくの間、俯いていた。 が、いつものようにやり切れなくなってしまい、やがてベッドの上で再び自分を慰め始めた。 京ちゃん、京ちゃんはきっと知らないよね。 私がいつもいつも読書中に寝ちゃってるのは毎晩毎晩、京ちゃんのことを想って 自分を慰めるあまり寝不足になって、だからつい昼休みにうたた寝をしちゃうんだってこと。 私は、決して満たされることはないのを知っていながら、それでも何もせずにいられないから、自分を慰め続ける。 本当は、こんなこと考えずに今は全国大会1ヶ月前だし、お姉ちゃんと仲直りするためにも、 また家族一緒に暮らすためにも、麻雀に専念した方がいいんだよね?しなくちゃいけないんだよね? ……でもね、それが出来ないの。いつ、何処にいても、何をしていても、貴方のことが気になるから。頭から離れないから。 …………私…どうすればいいんだろう? ――ねぇ……京ちゃん? 1日目終了
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Last update 2008年04月12日 踊れないリズムはいらない 著者:AR1 私の頬に、自然に笑みが浮かんできた。様々な色が混ざり合った照明を反射する虹色のミラーボールが宙に浮いているのを見て、または『レッツ・グルーブ』の機械的に加工(エフェクト)のされたヴォーカルが聴こえると、もしくは重低音の衝撃腹部から頭頂部へ突き抜けるたび、私の中にはリズムが躍動した。それは外から揺さぶられているのではなく、記憶が揺り起こす衝動だった。 たまたまディスコに誘うことが出来た友人が言う。「よくそんなに踊れるわねぇ」 私は揺れる身体を止めずに、我ながら器用に思いつつ答えた。「こんなことが出来るのは若いうちだけよ」 そうやって何時間を腰をくねらせる儀式に狂っていたのだろう。自己の熱と周囲の熱気に当てられ過ぎたのか、私は倦怠感を催してしまった。うっすらとかいた汗のせいで、少々癖のあるミディアム・ヘアが頭皮にへばりついているような感じがする。 入場口の方に戻ってオーバーヒートした私の体を冷まそうと考えた。まだディスコのホールから退場する時間には早い、と私は一瞬だけ浮上した弱音を一蹴する。「強がりはよして、カラオケでも行って夜を明かそうよ」と友人は進言して来たが、耳を貸すつもりはない。 防音仕様の重々しいゲートを開いて階段を下りると、正装した清潔な井出達の男が二人いた。見張り番役を任命された係員だった。風に当たって休んでもいいか、と許可を求めると、二人の係員が同時に顔を見合わせる。どうしようか、という目の会話がしっかりと聞き取れた。彼らには、店の経営に関わる些細な権限すらも与えられていないのだ。 二十秒ほど待たされて、少しだけなら、ということで了解を得られた。話の分かる人でよかった、という気持ちを込めて、俯いているのかどうか判別できないほど俯角の浅いお辞儀と「ありがとう」という言葉を残し、ゲートを抜け、そのすぐ傍に突っ立っていることを決め込んだ。 闇夜と喧騒をアスファルトと道路が擦れ合うノイズが引き裂く。私は約束の相手が来ない恋人のように頭を垂らしていたが、反射的に顔を上げる。分厚い面のロールス・ロイスが、静かなくせに野太い排気音とともに視界を左へ横切る。そして、反対側から対向して来た、同じ面をした車を追いかけようと頭を右へ振った。ロールス・ロイスなのかは分からなかったが、ボンネットに銀色の天使を乗せてはいなかった。 私の目の前には、様々な色に塗られた豪勢な車が通り過ぎていった。フェラーリ、ランボルギーニ、メルセデス・ベンツ、BMW、リンカーンのリムジン……他にも一昔前には珍し過ぎてお目にかかれない車種もあったが、それらの正体を暴けるほどの好奇心はなかった。ただ、高級車を所有出来る人に声をかけられたいという願望を振り払うには、私はまだ若過ぎた。車は所有者の財産を計る単純明快なバロメータである。 「私みたいな人、たくさんいるんだろうねあ。きっと」 私みたいな、というのは「私のような現金極まりない考え方」を意訳したものである。もっと年を食えば、露骨な羨望は角を丸め、異国での出来事のような他人事でしかなくなるに違いない。 春一番の来襲が三週間ほど前に訪れたとは言え、深夜の一時という時間で夜風に当たるという発想は、寒がりの私にとって無茶が過ぎたのかもしれない。ベルボトム・ジーンズに守られた下半身はまだしも、黒のロングキャミを纏った上半身には辛い。もっとも、暑さにも弱い私が夏にディスコに来ていたら体中の水分が塩分とともに抜けて、干からびた死体となって悪臭を振りまいているのかもしれないけれど。 ふと、右方から足音がした。私の前を数える気にすらならない大勢の人々が通り過ぎて行ったが、なぜかその足音だけは鼓膜ではなく、骨振動を通しているかのような異次元のダイレクト感で飛び込んで来た。首をそちらに曲げると、ボロ布の衣服に裸足の女性がディスコの中に吸い込まれて行った。私の経験の中では、尾崎豊が死んだことの次くらいにショックな出来事だった――ヒッピーの少女がクラブに入ったことではなく、入口で門前払いを食らわなかったことが。 私は眼を思いっきり見開き、しかし疑念は喉を振動させるだけで発声すらままならなかった。着飾っていないという次元の話ではない。これでは、大枚をはたいて衣装を調達している自分が馬鹿らしくなるではないか! 憤りが麻薬のように作用したのかもしれない。骨が金属に挿げ替えられたように重かった私の足が急に軽くなる。高揚した気分に身を任せてディスコのホールに戻ると、『ライディーン』がフェード・アウトして『ボーン・スリッピー』のレコードに針が落とされようとしているところだった。私は古臭い音より新しい音の方が好きだったので、ちょうど良いタイミングに戻って来れたことが嬉しい。 ディスコの中を見回しても、私の目の中に一際目立つであろうヒッピーの少女の姿はなかった。フロアは広大だったが、どこからともなく詰め掛けた客の中に紛れてしまったようだ。異質なものは避けたがる人間の習性があれば少女を遠ざけるように空間が出来ると思ったのだが、ノッている客達にすれば些細な異物なのかもしれない。 レーザーが私の頭上を駆け抜け、陶酔するような声には思わず快感を抱かずにはいられない。しかし、今はダンスする以外の用事を優先的に片付けたかった。少し冷静になって考えると、なぜドラッグを提供しないディスコにヒッピーの少女が何の用があるのだろう? 青い照明がスモークを突き抜け、黄緑のスポットライトがお立ち台に上がったストリッパー同然の女の扇子を照らし、黄色の照明が私の双眸を焼かんばかりに飛び込んできて目を逸らした。ホールの隅から隅まで歩き回り、終始眼球と首を動かすことを忘れなかったが、とうとうヒッピーの少女と鉢合わせすることはなかった。トイレでも借りにディスコに入ったのだろうか? コンビニじゃあるまいし。 周囲にまともに気を配っていない群衆の間を用心深く抜けるのは体力を使うことだが、パンプスが足へのダメージに拍車をかけた。時間は深夜の二時、オールナイトとしゃれ込んだわりにはあっさりと限界を迎えている私がいた。 ディスコに来る度に不思議に思うのだが、朝まで狂気に犯されたように乱舞している人達の体力には底がないのだろうか? ビールの中にドラッグを混ぜて飲まされているのかもしれない。本人ですら気が付かないうちに。もしかすると、自分も。 私にも、タイトにフィットした、鏡の破片を張り合わせたようなワンピースを着てお立ち台に上がっている時代があった。当時の自分のパワーに驚きつつ、しかしストリッパー寸前まで行ったことに恥を感じている訳ではない。だが、単なるノスタルジーに成り下がった過去に対して、なぜか妙なもどかしさを感じずにはいられなかった。――私はそれで何を得たのだろう? 無為に時間を過ごしただけなのではないだろうか? 急に心が萎えてきた。足が棒になりそうだ。またホールを離れたくなってきた…… 去り際、レコードが『キャント・アンドゥ・ディス』に取り替えられる。私にとっても、この場にいる私以外にとっても最高の賛辞かもしれない。最高の皮肉として。 外へ通じる玄関口にいた二人の男は、雲散霧消してしまっていた。連れションにでも行ったのだろうか? 見張りを立てずに持ち場を離れたのだとしたら、彼らは近日中にクビが飛んでいるに違いない。その前に、傭兵のような体格のヤクザにしこたま殴られるかもしれない。 外の様子もおかしいことに気付き、私は階段を下りてゲートから顔を覗かせる。ネオンの光や酔っ払いの浮かれた鼻歌、言葉巧みに女を引っ掛けるクラブの店員――見慣れた光景がそこにはなかった。路上駐車されている高級車のフロント・ウインドウには、標準価格の十分の一にも満たない値段で投売りされている。 「みんな、忘れちゃったんだよ。もしくは、最初から使い捨てのボロ雑巾と同じ扱いだったのかもしれない」 日付が変わってから初めてかけられた声に私は肩を震わせ、ディスコの階段へ振り向く。ヒッピーの少女が影のような儚さで、段差を椅子代わりにして腰掛けていた。 「何か用?」 「誰にも用はないよ。なあんにも、ね」 落ち着いた口調のせいか、あまり皮肉屋っぽくは聞こえなかった。むしろ、少女は嘲笑うつもりはないのかもしれない。確かなのは、私のことについてほとんど眼中にないということだった。 「ロールス・ロイスも何もかも、需要がなくなれば鉄屑と同じような値札を提げられる運命。じゃあ、需要があった頃に価値があると思っていたのは誰? そこに価値を見出したのはあなたではなく、あなた以外の誰か」 「だから、なんなの?」 「あなた達の感じている価値観は、過ぎ行く現在(いま)を満足させ、思い出話に花を咲かせるだけの肥やしにしかならないってこと」 「私には関係のないことよ」 「そうやって他人の考えに依存し切って、自分の感性もろともノスタルジーの中に置き去りにするといいわ」 それは捨て台詞であったらしい。少女はおもむろに立ち上がると、階段を上がってディスコの中に消えて行く。 「待って!」 私は遠く離れた少女の肩を掴むように腕を伸ばしながら、少女の背中から漂うような気がする残り香を頼りに追いかける。しかし、ディスコのホールの中まで全力疾走するも、重厚な扉を開ける私を迎えたのは夜逃げの後のような無味無臭感だった。広々としたホールには客どころか、機材も何もなかった。何年も前から貸しに出されている空き物件のような空白。 私の中では、ディスコでの出来事は過去のことになっていた。私が覚えていることはほとんどない。――皆がディスコに出入りしていた時は羽振りが良くて、開放的な気分に浸るために金を費やすことが出来た。皆――私を含めた――はそのことを当時の知り合いと共有する程度の重要性しかなかった。 私は無情に打ちひしがれ、ディスコの門前で膝を突き、そのまま歩道に尻餅をついてしまった。ディスコで踊っていた私のリズムが体の心から消えうせ、情景の中にしか見ることが出来ない。 ディスコを楽しめたのも、またヒッピーの少女に出会ったのもそれきりだった。 前の作品 次の作品 コメント 名前 コメント
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ちらりと部屋の時計に目をやる。二本の針は見間違いようのない直角を示していて、今の時間が普段過ごすことのない深夜だということを俺に教えてくれた。 何故そんな時間まで起きているのかという理由については、さっきから俺の頭の中でくるくると踊るように回っている言葉を見て貰えば明白だと思う。 ……寒い……。 これ以上ないくらい単純な話だ。 なら、布団に入って眠ればいいのでは?という声が聞こえてきそうだが、残念ながら今の俺は布団の中にいて、その上で寒くて眠れないことに困っている。 朝の天気予報で言っていた「今日は暖かい一日になるでしょう」という言葉は、どうやら深夜の布団の中までは保証してくれなかったようで、いきなり舞い戻った冬の寒さは、春の陽気に油断して毛布を一枚減らした愚か者の体温を着々と奪っていった。 苦し紛れに足を擦り合わせても、体を丸めて布団にくるまってみても、俺の意識は綱渡りをするピエロのように絶妙なバランスで眠りと覚醒の間を行き来している。 ……何かに負けた気がするが、ここは素直に毛布を一枚引っ張り出そう。 半端な眠気と倦怠感に足を引っ張られながら、やっとの思いで布団を抜け出し押し入れを開ける。 「……あれ?」 だが、そこには俺の求めた魅惑の寝具は見当たらなかった。 「……あ、そうか」 ……どっちにしろ毛布はなかったんだ。 今夜はどっかの誰かさんが妹の部屋にお泊まりするために我が家から寝具が一組消えている。 その誰かさんは、いつものように俺に勉強を教えに来ただけのはずなんだけど……夕方になると何故かお袋と一緒に夕飯を作っていて、いつの間にか家族の団欒に溶け込んでいて、気が付いたらお泊まりが決定していた。 ……今考えると妙な話だ。誰かの陰謀すら感じるな。 ……まぁ、そんなこんなで、すっかり忘れていたが毛布は目下貸し出し中だったんだ……。 ……くそ。 人様の毛布にくるまってぬくぬくと眠る誰かさんを想像すると、言いようのない怒りが込み上げてくる。 ……が、 「……布団に戻ろう」 ……そんな怒りも着実に冷えていく体を暖めてくれるはずもなく、今の俺には布団に残った僅かな温もりを逃がさないことのほうが大事だった。 「……う」 ……やっぱりちょっと冷えてるな。 全く無駄な行動をしたものだと自分のうっかりさ加減を呪う。 ……ったく、あいつが俺の毛布を気に入らなければ……いや、いい。寝よう。目を瞑ってたら寝れるはずだ。 俺はいつもなら敵に回ることの多い睡魔に檄を飛ばしつつ、ぬるま湯のような中途半端な眠気の海に身を投じていった。 より暖かい姿勢を求めてもぞもぞと体を動かす。いい感じで意識が朦朧としてきているものの、まだ完全な睡眠には至っていない。 あれから数時間ほど過ぎたようにも感じるし、まだ数分しか経ってないようにも感じる。相変わらずピエロは綱渡りを続行中だ。 このあと熟睡出来たならともかく、これが朝まで続いたら間違いなく最悪な目覚めを迎えることだろう。 ……湯たんぽでも何でもいいから、何か暖まるものがあれば眠れるのに……。 俺がそんな考えを浮かべたのを見計らったように、ミシリとベッドの上に俺以外の誰かの重みが乗った。 こんな夜更けに俺のベッドに潜り込んでくるヤツなんか我が家には一匹しかいない。 ……シャミセン?なんだいたのか。 「……そういや、お前がいたな。よし、こっちに来い」 これ幸いにとベッドに乗ってきたシャミセンを抱き寄せる。 しかし、普段なら頼まなくても勝手に布団に潜り込んでくるシャミセンだが、今日に限って激しい抵抗を見せた。 「痛っ、コラ、暴れるな」 それとお前太ったか?なんか重いぞ? ぼそりと付け加えるようにそう呟く。すると、シャミだと思っていた生物が否定の言葉を口にした。 「な!?失礼ね!太ってないわよ!」 「……ん?」 ……ハルヒ? 「……そうよ。誰と勘違いしてたのよ?」 いや……シャミと……って、あれ?それより、お前は妹の部屋で寝てたはずじゃ? 「あ……それは……その……ちょっとだけ寝顔を……」 ……まぁ、この際どうでもいいや。 「え?」 寒いから一緒に寝るぞ。 「は?なんの冗談……ひゃう!」 ベッドの上に四ん這いになっていたハルヒをくるりと布団に引きずり込む。 はぁ~……暖かい。 「ちょ、ちょっと!さては、あんた寝呆けてるわね!?は、離しなさいよ!」 おやすみ~……。 「こんな所を家族の人に見られたらどうするのよ!?……こら!本当に寝るな!バカキョン!」 Zzz……。 「キョーン!」 翌朝、清々しい朝日に目を細めつつ、どこか茫然としながら俺は一人呟いていた。 その呟きは、まるで他人事のように空々しく聞こえ、俺しかいない部屋に溶けて消えた。 「……何やってんだ、俺」 何をって……それは、ただ行動だけを言葉にしてみれば原稿用紙半分にも満たない、その程度の出来事だ。しかし、それを言葉にするには些か混乱し過ぎている。 ……よし、何も考えずに事実だけを整理してみよう。 昨夜は寒かった、眠かったけど寒くて眠れなかった、だからハルヒを抱き枕にして寝た、以上。 「……って、以上じゃねぇ!」 寝呆けていたとはいえなんつー行動をしてんだよ! 出来ることなら眠れない夜が見せた夢であって欲しかったのだが、部屋の状況は俺の希望をやすやすと打ち砕いてくれた。 ぽっかりと一人分空いているベッドのスペースに、昨日貸し出したはずの毛布。そして、微かに残る俺以外の体温と思いの外鮮明に残っているハルヒの感触……。 ……うん、柔らかかったな。 「…………」 ……いや、トリップしてる場合じゃないだろ。 問題は否応なしにこの後ハルヒと顔を合わせなければならないってことだ。 「……どうする?」 いくつかの提案が俺の頭の中を飛び交う。議題が議題なだけに、脳内会議はどこぞの国の国会のように荒れに荒れていた。 『だから!覚えてないで通すんだよ!』 『あのハルヒ相手にそれが通る訳ないだろ。素直に謝っとけ』 『そんなことするくらいなら俺は死を選ぶ!』 『大袈裟すぎやしないか?』 『……だるい、眠い』 『お前も真面目に考えろよ!』 『……長門を頼れば?』 『いくら長門相手でもこんな恥ずかしい話が出来るか!』 『そうだ。いっそのこと、これ以上の既成事実を作ってうやむやにしてしまおう。一石二鳥だろ?』 『急進派は話をそっちへ持っていこうとするな!』 『Zzz……』 『寝るな!穏健派!』 「…………」 こんな混乱した思考では考えがまとまるはずもなく、 「……顔でも洗ってくるか」 ひとまず頭をすっきりさせようと俺は洗面所に足を向けた。 ……冷静に考えればこの後に起きる事態も想像出来たはずなんだが、そんな判断が出来るほど落ち着いていれば、そもそも顔を洗ってリフレッシュするまでもなく打開策が浮かんでいた訳で。 だから、この仮定の話は全く意味はない。意味はないが……それでも一分前の俺に非難の声を上げずにはいられなかった。 ……こういう可能性があることくらい気付けよ、と。 もう何があったかお分かりだろうが、一応言葉にしておこう。 ……洗面所にはハルヒがいた。 「…………」 あからさまに何か言いたげな視線を俺に投げ掛けてくるハルヒ。 うん、これで確定した。幸か不幸か昨日のあれは夢じゃない。 事前にシミュレーションする暇もなく、いきなり敵の前に放り出された俺は、自分でもどこか無理を感じながらも脳内会議で一番最初に出た案を採用した。 つまり、俺は何も気付いていない、昨日のことは覚えていない、昨夜俺は一人で寝た。そういうことだ。 ハルヒが口を開くより先にこちらから話を振る。 「おはよう。昨夜は寒かったけど、よく眠れたか?」 ……我ながら白々しい台詞だ。 「……誰かさんのお蔭で鬱陶しいくらい熱かったわよ。そのせいで眠れなかったけどね」 ……いきなりキツイな、おい。 「そ、そうか。まぁ、今日は休みだし問題ないだろ」 「まったく……誰のせいだと思ってるの?」 「……なんのことだ?」 「あんた、覚えてないって言うつもり?」 「……さっきからイマイチ話が見えないぞ?」 ハルヒは直接的な表現を避けて遠回しにこちらを攻める。チクチクと居心地の悪い空気に、早くも急進派と穏健派が白旗を振った。 えぇい、根性なしめ。ここまで来たら知らぬ存ぜぬで押し通すしかないだろ! 「それより顔を洗いたいんだ。蛇口使っていいか?」 「あくまで白を切るつもりなのね?」 ふぅ、と一つ息を吐き、ハルヒはこちらを見据える。いよいよ核心を突くつもりのようだ。 ……よし、どんな追及が来ようと白を切り通すんだ。ここさえ乗り切ればどうにかなる……多分。 俺は軽く息を飲んで、ハルヒが繰り出すであろう豪速球に対して身構えた。 ……が、 「……一つ言っておくけど」 「……なんだ?」 「……さっきから顔が真っ赤よ、バカキョン」 「……」 ……ハルヒの決め球は反則投球だったようだ。 想定外の攻めにこちらが言葉に詰まったのを見ると、ハルヒはニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべて止めを刺しにくる。 「何がそんなに恥ずかしいのかしら?」 「……う」 「エロキョン」 あっさりと形勢が決まってしまい、最早俺が何を言っても誤魔化すことは出来ないだろう。 このまま為す術なくサンドバッグのように滅多打ちにされることが敗者にふさわしい末路なのかも知れない。 ……けれど、勝ち誇るように腕を組むハルヒを見て、俺の中で何かがキレた。 「……お前だってしばらく出ていかなかっただろ」 「な!?」 「抱き締められたらすぐに抵抗やめたしな」 「~~ッ!」 「エロハルヒ」 「や、やっぱり覚えてたんじゃないの!」 「う、うるさい!全ての元凶はお前が毛布を持っていったことだろうが!」 「意味が分からないわよ!バカキョン!大体あんたがなかなか離さなかったから出て行けなかったのよ!」 「う……な、なら起こせばいいだろうが!そしたらお前なんか布団から放り出したさ!」 「なんですって~!?」 「……お母さ~ん。キョンくんとハルにゃんがケンカしてるよ~?」 「それは仲のいい証拠だから放っておきなさい」 「そうなの?」 「あれが二人のコミュニケーションの取り方なのよ」 「ふ~ん……?」 「あとで『夫婦喧嘩は犬も食わない』って言葉の意味を二人に聞いてみなさい。あ、お母さんが言ったってのは内緒ね」 「わかった~」 「エロキョン!」 「エロハルヒ!」 END
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狭心症や急性冠症候群について、安定狭心症と不安定狭心症の観点から、診断方法や治療法について復習。 はじめに ・心筋虚血は心筋の酸素需要に対して供給不足の状態 ・その原因は代謝異常や冠血流の悪化 ・主な虚血性心疾患は狭心症と心筋梗塞 ・狭心症は 一過性に心筋虚血を生じた状態 ・虚血性疾患の発症には生活習慣病などのマルチプルリスクが強く関連 分類 ・労作性〈安定〉狭心症(ST低下):労作によって再現 ・安静時狭心症:安静時に発生する ・安静時狭心症は、早朝か夜間に血管が痙攣して起こる冠攣縮性〈異型〉狭心症(ST上昇)と不安定狭心症(ST低下)がある。 ・不安定狭心症は他の狭心症に比べて心筋梗塞を約3倍発症しやすい。 ・Braunwald分類では、不安定狭心症を重症度・臨床状況・治療状況についてそれぞれ3段階で評価。 ・Braunwald分類では、予後の予測に有用。 最近2ヶ月以内の新規発症→48時間以内の発作→安静時の発作と重症度が進むにつれ、 心筋梗塞発症リスク高い。 ・不安定狭心症は迅速な診断と治療が必要である。 ・不安定狭心症・心臓突然死・急性心筋梗塞→急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome:ACS) ・ACSの発症メカニズム 不安定プラーク(Vulnerable plaque:lipid-richな三日月状で薄く破れやすい線維性皮膜をもつ) の破綻に引き続き →粥腫が露出して血栓が形成 →急激な冠動脈閉塞を来たして →急性心筋梗塞に至る。 ・ACSの突然死の原因は閉塞自体でなく、ショックによる血圧低下、心室頻拍・心室細動、 心臓破裂etc ・プラーク破綻に起因する心筋梗塞は全体の8割→不安定プラークの早期発見が重要! 狭心症の症状 ・虚血性心疾患における胸痛の訴えは、重苦しい、締め付けられる(拘扼感)という表現が多い。 ・高齢者では単に倦怠感のみを訴えることもある。 ・糖尿病患者では約6割が無痛性。 ・痛みの部位は前胸部が多く、顎・左腕に放散し、自律神経失調による冷汗を伴う。 ・痛みの持続時間は狭心症では5分程度、心筋梗塞では20分以上持続することが多い。 ・鑑別すべき胸痛を呈する疾患:大動脈解離(背部の激痛・疼痛部位の移動)、 肺塞栓症(下肢や骨盤腔の静脈血栓症)、気胸(呼吸で変動する胸膜痛)など。 ・あらゆる年齢層で、不安やストレスが原因の心因性胸痛も増加。 虚血性心疾患の診断 ①詳細な病歴の聴取 ②心電図(虚血発作時) ③運動負荷心筋シンチグラフィー ④ドブタミン負荷心エコー図法 ⑤経胸壁心エコー図法 ⑥冠動脈造影もしくは冠動脈CT(マルチスライスCT) ※安定労作狭心症の場合にも、運動負荷試験や冠動脈造影を含めたリスク評価が必要 ※ACSの早期鑑別および回避を目指す。 (虚血発作時の心電図) ・虚血は心臓壁の内側から外側に向かって起こる。 ・虚血範囲が小さく心内膜下部分の虚血状態でのST→低下 ・心内膜から心外膜まで全層性に及ぶ貫璧性虚血あるいは壊死のST→上昇 ・ST上昇と胸痛→95%以上が心筋梗塞・残りはウイルスによる急性心膜炎が多く、若年者に多い。 (心筋シンチグラフィー) ・安静時心電図が異常時に灌流欠損像として心筋虚血を検出。 ・201Tなどを投与し、一定時間後に201Tなどの集積を測定し、冠動脈の心筋への血流や機能状態を評価 (ドブタミン負荷心エコー図法) ・安静時にみられない壁運動異常などを検出。 ・ドブタミン投与により心拍数を上昇させて心筋の酸素需要を上げ、胸痛の発生や心筋の動きを 観察。 (経胸壁心エコー図法による冠血流予備能測定) ・冠動脈の血流を観察し、虚血による左室機能を評価 ・虚血性心疾患の約8割はこの心エコー図で診断可 (冠動脈造影(Coronary Angiography CAG)) ・狭窄の部位や程度、及び冠動脈の状態を診断。 ・AHAの冠動脈区域分類と部位で表記。 左冠動脈前下行枝(Left Anterior Descending coronary artery: LAD) 左冠動脈回旋枝(Left Circumflex coronary artery: LCX) 右冠動脈(Right Coronary Artery: RCA) ・CAGは入院が必要 (冠動脈CT(CT Coronary Angiography:CTCA)) ・造影剤により冠動脈内腔のみならず動脈壁も観察可で、外来で診断可 ・CTCAでは、プラークの性状をCT値で評価 ・CT値は空気を-1000、水を0としてX線の透過率を表す数値。 ・CT値≦50の不安定プラーク→LDL値正常でもスタチン増量することあり(CT値が薬剤加減の指標) ・3年以上の糖尿病の既往、脂質異常症または高血圧の合併があれば、CTCAを考慮 (頸動脈エコー検査) ・動脈硬化の評価の併用も重要。 ・内膜・中膜複合体厚(Intima Media Thickness:IMT)の測定により、動脈硬化の状態を合わせて評価 (正常のIMTの厚さは1.0mm以下) (三次元心エコー図) ・心臓を立体で表示して冠動脈流をリアルタイムに観察できる (2Dスペックルトラッキング(2D speckle tracking imaging)) ・過去の虚血が類推できる。 狭心症の治療 虚血性心疾患の治療には、薬物治療(運動療法)、経皮的冠血管形成術(Percutaneous Coronary Intervention PCI)、冠動脈バイパス手術(Coronary Artery Bypass Graft CABG)がある。 1.基本的な薬物治療 ・禁忌のない限りアスピリンを使用。 ・労作性狭心症にはβ遮断薬か心拍低下型Ca拮抗薬 ・冠攣縮性狭心症にはCa拮抗薬を中心に投与。また長時間作用型硝酸薬やニコランジルを併用。 (硝酸薬) ・冠血管拡張作用により心筋への酸素供給を増やす。 ・硝酸薬の長期使用による薬剤耐性が問題とされ、発作時のみの頓用使用に限定されていた。 ・最近では長期硝酸薬の使用は非使用に比べて予後が良いとの日本人での報告もある。 (β遮断薬) ・大規模試験により虚血性心疾患の予後に対する効果はほぼ確立されている。 ・日本では冠攣縮性狭心症が多く(攣縮と狭窄との合併も多い)、β遮断薬の血管収縮作用でより 発作が起こりやすく禁忌。 ・ただし、カルベジロールは比較的攣縮が少ないため、使用される。 ・β遮断薬の使用時には、慢性肺疾患・徐脈・性機能不全などの出現には注意が必要。 (Ca拮抗薬) ・欧米での大規模臨床試験からは、ジヒドロピリジン(DHP)系及び非DHP系Ca拮抗薬が 虚血性心疾患の予後を明らかに改善するという報告はない。 ・特にDHP系については、いずれも高用量の短時間作用型での試験結果であり、 短時間作用型DHP系では反射性頻拍を引き起こすことがあるため、用いるべきではない。 ・冠攣縮性狭心症ではCa拮抗薬が有効(長時間作用型DHP系の使用が多い)。 ・non-dipper型やmorning-surge型の高血圧合併患者に対しては、長時間作用型DHP系でも、 1日2回投与も検討される。 (ニコランジル) ・高リスクで安定狭心症患者を対象としたIONA 試験で、プラセボ群に比べてニコランジル群で、 主要な冠動脈疾患死および非致死性心筋梗塞や胸痛による緊急入院を有意に抑制との報告あり。 (ACE-I及びARB) ・血圧値が正常域内で心血管疾患・糖尿病を有する(心不全患者除く)高リスク患者を対象とした ONTARGET 試験で、心血管イベントの発症においてテルミサルタンはラミプリルと非劣性と報告。 ACE-Iによる咳の副作用は服用者の約30%に発現し、用量・期間に依存するため、 ARBが第一選択薬となる可能性が高い。 (脂質低下療法:スタチン系薬剤) ・LDLを下げるためではなく、プラークの安定化を目的として投与。 いくつかの大規模試験より、脂質低下療法の虚血性心疾患の予後に対する効果はほぼ確立。 2.経皮的冠血管形成術(PCI) ・十分な薬物治療にもかかわらず狭心症が持続 or 心筋虚血が患者の死亡リスクを上昇させている場合 ・冠動脈造影に引き続き、PCIでバルーン形成術単独もしくはステント留置術。 ・PCI後に問題となる再狭窄は、新生内膜の増殖と血管のリモデリングが原因。 ・再狭窄率は、バルーン形成術で40%、Bare Metal Stent(BMS)で20%、 薬剤溶出ステント(Drug Eluting Stents DES)で5% ・ステントで、再狭窄は完全には防げない。 ・PCIの施術前には、IVUS や OCT で冠動脈病変の血管径や病変長、プラークの位置や偏りなどの 詳細情報を得る。 ※IVUS:血管内膜やプラークの定量的評価が可能である(分解能は0.1mm)。 ※ CAG:血管壁は見えないが、IVUSを用いると今まで正常と診断されていた動脈硬化や プラークラプチャー、血管のリモデリング、再狭窄が観察できる。 ※OCT:冠動脈血管の三層構造(内膜・中膜・外膜)や石灰化病変をリアルタイムで鮮明に観察可 (分解能は0.01mm)。 lipid-richで膜が薄い場合には透けて黄色プラークと観察。 75μm以下の薄い内膜は破綻しやすいプラークとされている。 3.血栓管理と抗血小板療法 ・易血栓性微小血栓はアテロームと相互に関係してアテロームの不安定化を促進させる(仮説)。 :血管の内皮障害により血 小板や白血球が活性化されて内皮に炎症が起こって血栓ができる。 これと同時に可逆的に微小血栓は溶解し、その溶解の際に白血球からアテローム促進因子 (MMP-9・TNF-α・IL-6など)を放出して炎症を助長してアテロームの不安定化を促進する。 :このような悪循環が不安定プラークの形成を促す :抗血小板薬の継続的な投与はこのような悪循環を断ち切る効果があると考えられている。 ・通常PCI施行後、出血リスクの無い場合はDES留置後、クロピドグレル75mg/日を 少なくとも1年間投与し、BMS留置後には少なくとも1ヶ月間(理想的には1年間)継続するよう 推奨(ACC/AHA/SCAI PCIガイドライン2007)。 ・昨年、日本でシロリムスステント留置後のチエノピリジン系薬のアスピリンへの併用期間 について、6ヶ月以内の中止でも心筋梗塞や死亡は上昇しなかったとの報告があるが、 上記、血栓とアテロームの相互関係の仮説から検討すると、議論の残るところ。 ・一方、アテローム性血栓イベントの高リスク患者を対象としたCHARISMA試験 :クロピドグレル+アスピリン群とアスピリン単独群とは、「初発の心筋梗塞+脳卒中+ 心血管死」について有意な差なし。 :症候性患者 (冠動脈疾患、虚血性脳血管疾患、末梢動脈疾患)を対象としたサブ解析では、 併用群で「初発の心筋梗塞+脳卒中+心血管死」はわずかではあるが有意に減少 した (RR〔相対リスク〕 0.88 95%CI〔95%信頼区間〕 0.77~0.998)。 :無症候性患者では有意な差はなかったが、心血管死では併用群で有意な上昇(p=0.01)。 :中等度出血は併用群で有意に増加し(RR 1.62 95%CI 1.27~2.08) :重度出血も増加する傾向であった(RR 1.25 95%CI 0.97~1.61 p=0.09) ・これらの知見と今般の日本の生活習慣の欧米化も考慮して、抗血小板薬の併用が適応となる病態や 投与期間のさらなる検討が必要と考える。 ・クロピドグレルの loading dose(初回負荷300mg)は、PCI施行1週間前からのアスピリンへの 併用投与が理想。 ・緊急のPCI施行時には直前投与(300mg)を行う。 ・loading doseを行う理由 :ステント留置直後のloading dose無しのOCT画像で、ステント内面に微小血栓の付着が観察される :クロピドグレルが効きにくい患者が多く見られる :主に CYP2C19 による肝臓での代謝後に抗血小板作用が発揮され、効果発現に時間を要する。 :症候性冠動脈疾患におけるPCI施行予定患者を対象としたCREDO 試験では、 loading doseの有用性とタイミングを検証。 → PCI施行後1年間のアスピリン+クロピドグレル追加投与 (PCI施行前3~24時間以内に300mg負荷投与、施行後75mg/日投与)は、 アスピリン単独群に比べて「死亡+心筋梗塞+脳卒中」の発生率を有意に低下 (RRR〔相対リスク減少率〕 26.9% 95%CI 3.9~44.4%)。 → PCI施行前の6~24時間でのクロピドグレル300mg追加群では「死亡+心筋梗塞+脳卒中」の 発生率を低下させた(RRR 38.6% 95%CI -1.6~62.9% p=0.051)が、 6時間未満では十分な血小板凝集抑制効果が発揮されないことが示唆。 ・上記の非臨床や臨床でのエビデンスを考慮して、虚血性心疾患によるアテローム血栓だけでなく、 全身の血栓予防のために、Act Local かつ Act Global な視点から、抗血小板薬の最適な継続期間と 有効な投与方法による長期的管理が重要と考えられている。 Q:ACE-IとARBを併用することの意味は? A:前述のONTARGET試験によると、併用療法についてはACE-I単独投与を上回る有効性は みられず、有害イベントは増加。併用するのは費用の問題か。 十分な降圧のためには、ARBは現行の基準量の1.5~2倍必要と思われ、 それを補うための利尿薬あるいはACE-I併用ではないかと考える。 Q:スタチンを選ぶ基準はあるか?また血液検査の数値のみでこれを投与する際の注意点は? A:いずれのスタチンでも投与目的の60~70%は到達しており、投与すること自体に、 意義があると考える。どんな患者にどの時期に投与するかを見極めることが重要である。 血液検査だけでなく、多面的な検査も必要で、1年に1回は頸動脈エコー検査でIMTの測定が 望ましいが、他に疾患がある場合はより精密な検査も考慮する必要がある。 Act Local かつ Act Global な視点・・・その心を、今後も注意して学んでいこう。 ヾ(* - *)
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用語集(あいうえお順) あ 医務室 いつの間にか場所や広さが変わっていることで有名なデュナミス魔法学校の保健室。常備されている魔法薬は苦いものが多い。人手不足を補うべく新たに担架型のドローンが配備された。 魔導車喫茶(オートカフェ)『LOW-RIDER』 魔法学校から少し離れた場所にある、魔法都市における有名なカフェの一つ。魔導車関連の装飾や雑誌が多く、店名も車高を下げるカスタマイズから採られている。名物のサンドイッチは二人で分け合うと軽食に丁度いいボリューム、焼いてもらうこともできる。 演算魔法式 魔法方式の一つ。 文字の代わりに数字と式を組み合わせて用いることで魔法を発動させる。 ただ同じ数字を同じ式で組み合わせればいいというものではない、0と1をただ並べているだけでは非効率である。 精密かつ効果的に数字と式を組み合わせて記述する必要があり、専用の学問が存在するほどである。 お お伽噺の魔法。理論によって基づく魔法と違って杖を振るえば家具が生物になり、反対に家具が生き物になるなど高難度の魔法を容易く行い、熟練した使い手なら無から有を産み出すことも可能となるあり得ない(童話)の魔法。しかし万能というわけでは無く、変身術が得意な代わりに四大元素を産み出すことは不得意という欠点もある。使い手の多くは夢想に生き、大人になろうと幻想を生きてる者らしい要するに精神がアレな人が多い か カフェ エスプレイス メニュー コーヒー類 店長の気まぐれメニュー カレー パフェ ナポリタン プリンアラモード 概要 最近できたカフェ 店長が物凄く怪しい 具体的にはゴニョゴニョ 美しい展示品と音楽が売り アルバイト募集中 基礎魔法 基本的に魔法を習った者ならば誰もが使える射撃魔法、障壁魔法、強化魔法、砲撃魔法、以上四種の無属性魔法のこと。これまでの歴史の中で一部の研究者たちが改良と最適化をし続けた結果、術式が簡潔で洗練された物になり、容易に要素を後付け・改変出来る柔軟かつ自由度の高い魔法だが、威力が然程高くないのと現在は属性魔法が主流なため、身体強化魔法以外は使用者は少ない。 さ 従魔 自分に従うよう契約を結んだ魔物のことを指す。契約した主の命令にある程度従う。魔物であれど生物という事に変わりはないので主となった人物には従魔の面倒を見る責任があり、そういった人達をサポートする店もある。 食堂 デュナミス魔法学校のそこそこ広い食堂。自由に生卵を持っていける「TKGコーナー」が常設されている。今年度から自動でお盆が料理を運ぶシステムが導入された。 操作魔法 何かを操作するための魔法。土や水、植物など自然から自分の肉体、運などの形のないもの、果ては他者まで、操作できるものに限りはない。 詳しくは魔法一覧の項で。 た 都市議会 都市における立法府。 都市内の各区ごとに直接選挙で選ばれる議員により構成される。 各区の人口比によって選出される議員数も変わるため、固定化された人数の理事会よりも民意を反映しやすいのが強み。 都市内の条例の制定、都市理事会並びに都市行政の監督、都市の予算議決が主な仕事。 任期は二年。再選は何度でも可能。 都市理事会 都市内の行政を監督する組織であり、行政に対する決定権を有する組織。 理事長が名目上の市長であるが、実際は理事会の決定が優越する。 理事会は市民の直接選挙で選ばれる理事長と12人の理事により構成されており、各理事と理事長が1票ずつ有する。 それぞれの理事と理事長には任期中の不逮捕特権が存在するが、都市議会は理事を罷免する権利を持つ他、都市の市民が一定数の署名を集めれば都市理事会を解散させることが出来る。(理事長が都市議会により退任させられた例も市民によるリコールの例もアリ) 理事会の任期は4年であり、理事長は二期8年まで務めることが可能である。 ただし例外として理事長死亡時に任命された臨時理事長の残り任期が2年未満であった場合、三期目(通算10年以内)の挑戦が可能である。 な ノワール・エトワール デュナミス魔法学校から少し離れた商店街の4丁目辺りの中央の細めの扉に入ることで入店できる、かなり落ち着いていて大人っぽい雰囲気の隠れカフェ。 店長がいれるブラックコーヒーは深いコク、程よい苦み、良い後味を兼ね備えた絶品だが、本人はブラックにこだわりすぎて砂糖もミルクも置いていない。 出されるお菓子も店長の好みが反映されており、普通のチョコ、チョコクッキー、焼きチョコなどのチョコレート類ばかり。 は 刃輪殴羅魔法学校 魔法都市に存在するデュミナス魔法学校とはまた別のライバル校 世紀末伝説じみた改造車に乗ったモヒカンやヤンキーとか番長とかが居る 治安は少し悪めだが、生徒達の意見を尊重したりする自由な学校でもある 魔族の生徒も多い ポータル屋 魔法のポータルを貸し出しているレンタルショップ 容量が決められておりより多く入れられるポータル程貸し出し費用が高い。 1番安いプランは魔法の杖を除いた計15種の物品を入れられる。 箒(魔道具) 魔道具である箒を媒介に、柄から送り込まれた魔力を穂で飛行のための力へと変換することで空中浮遊ができる。量産品は幾つかの穂での変換をいくつかの束で纏めているが、一本ずつ丁寧に繋げられた高級品もある。 魔力があれば誰でも飛べる。必要なのは操作技術だけ。宅配や運送の仕事などにもよく使われるメジャーな乗り物の一つ。サイズの大きいものや二人乗り用などもある。 なおこれは魔道具としての箒であり、他の原理で飛んでる箒もあるとかないとか。 筆記魔法式 魔法方式の一つ。 魔法的な意味を持つ文字を複数文法で組み合わせて用いることで魔法を発動させる。 ただ、文字を並べて書けばいいというものでもない、同じ文法をただ書き表せばいいというものではない。 意味を持たせながら正確かつ効果的に文字を文法で組み合わせて魔法を発動させられるよう記述する必要がある。 ま 魔源 呼吸や食事、睡眠などによって外部から大気中の魔素を吸収して体内に取り込む事で魔力に加工する魔力生成機関。例えるなら魔素が原油、魔力がガソリンでその加工を魔源が担っている。回路と核の二つから出来ていて、この世界の生物は皆これを体内に持っている。回路は全身に張り巡らされており核は心臓に近い部分に存在しそこに魔力が貯蔵される。この核に貯蔵できる量が所謂魔力量である。 また短時間での極端な魔法使用をした場合、魔源の核と回路の機能が低下、倦怠感などの症状を引き起こし、最悪気絶する場合もある。回路は肉体に神経の如く張り巡らされているため外傷により損傷する場合があるが、早期の治療で充分に回復可能。 魔素 大気に満ちる、未だに謎が多い未知の元素。この元素の発見により魔法文明が栄える事になる。後の研究により植物などが光合成時に生成し酸素と共に排出される事が分かっている。なので植物は魔力と親和性が高く、魔法の杖は基本木製なのである。 魔導エンジン 受け取った魔力を魔法に変換し、外部に働きかける機関。熱機関の構造を流用しやすいため火属性の魔法に変換するものが多い。魔力を送り続けなければならず純科学の内燃機関や電動機ほど普及していないが、エネルギーの損失が少ないという利点がある。 魔導剣技 魔法と剣術を組み合わせた技の総称。組み合わせる魔法の種類や剣術の型や流派は問わない為、比較的使いやすく修得者の多い技から、独自に編み出された個人個人のオリジナルの技まで、その種類は多種多様。 魔導車/魔導バイク 魔導エンジンによって車輪を回転させ走る自動車/オートバイ。運転手の魔力を使うため普通の自動車やオートバイの方が普及しているが、魔力を消費しながら大地を駆け抜ける感覚にハマる者も多い。 魔物 人語を喋らない魔力を持つ生物全般を指す。中には人語を少し理解し、ある程度の意思疎通ができる固体もいる。 魔力 魔法を発動する為に消費される力、魔源によって外部の魔素を吸収、エネルギーとして加工したものが魔力である。魔法発動により消費されても全てが消滅する訳ではなく、余剰分が周囲に魔素として大気に霧散したり、専用の触媒や魔導書なら残留する場合もある。 蝋やオイルで魔力を制御する手段も存在するが、「需要」「コスト」「既得権益」などの様々な問題から研究は進んでいない。 魔糸 魔素を多く含んだ植物を食べた糸を出す生き物、又は植物そのものからとれる糸の事 魔力伝導率が高く様々な用途で使われる ランクは概ね 植物→羊毛→絹糸 と上がっていく これはただ生えただけの植物よりも体内で生成し直した羊毛の方がより強くなり、生え変わる羊毛よりも一生に一度しか作られず更には守る為の繭から作られている絹は更に強くなる為である マジフォン 魔電導相互変換機搭載式携帯型情報通信端末装置(マギアボルトコンバーターシステム・ジオメトリーフォン) 魔導トランジスタや魔電導コンデンサ、幾何学抵抗器などによる……と説明を始めれば専門的な用語ばかりなのでほぼ割愛する。要は写真や動画の撮影・加工、通話やメールなどに画像添付等の情報交換、ネットの情報検索・閲覧及びさまざまなアプリ・ゲームの取得、動画配信サービスに繋いで動画視聴も可能な高性能小型端末。(所謂スマホ) マジチューブ Magitube。大規模オンライン動画共有プラットフォームで動画の投稿・閲覧を主としたサービス。利用者が動画データを投稿すると、ブラウザやアプリなどで再生できる形式に自動的に変換し、他の利用者が閲覧できるシステムになっている。(Yo○Tube?ナンノコトヤラ) 魔道具 魔法を行使するために用いる道具の総称。現在は扱いやすいという理由から、魔源と同様に核と回路で構成された方式が主流となっている。 港 旅客船と貨物船がひっきりなしに出入りする魔法都市の玄関口。毎月一度バザールが開かれ、様々な物品が売買される。埠頭には使われていないコンテナを改装して暮らしている 変わり者 もいるようだ。 魔法細工 魔法で作られた小さな置物や玩具の総称 や ら 霊障 霊と関わることで稀に起きる病気。 症状は金縛りから寝たきりになるものまで様々なものがある。 一部の人間 は体の一部が変形したり化け物になる者がいるらしいが一般的には信じられていない。 治療法は確立されているため早期に治療できれば脅威ではない。 わ WWWA 世界(World)魔法使いの杖(wizard s wand)協会(Association)。魔法使いの杖を安心して、楽しく使って貰いたい。そんな想いを胸に、世界中の人々の安全でより身近な魔法生活への貢献と関連業界の健全な発展を目的として、世界魔法使いの杖協会【WWWA】は設立された。
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仄暗い水の底に沈みきって、どれだけの時間が流れただろう。 光も、音も、何もかもが遠い。 時折ちらりと視界を過ぎる小さな魚影だけが、僅かに慰めと言えなくもない。それでも、物言わぬ死体となり果てた『元相棒』を横目に『孤独』であることに変わりはない。 (ああ――――孤独、孤独だよォー……) 何を叫ぼうと届きはしない。印すらない水の底に、動くはおろか物言うことすら出来ない刀剣に、救いの手が現れるはずもない。 ナイルの奔流から掬い上げられた歓びも泡沫の夢、このまま錆付き朽ち果てるまま、緩慢に流れる時に任せた消滅を迎えるばかりだとアヌビス神は思った。いや、思っていた。 (あぁ――――うン? なんだ、ありゃあ……?) ゆらりと泳ぎ過ぎた魚影は、それまでにちらちらと見えていたものよりも妙に大きい。そして、見たこともないような形をしていた。 奇妙なことに、通り過ぎるばかりだった小魚と違い、その魚影はアヌビスの周囲をグルグルとうろついているようだった。チラリチラリと視界の端にその影が映っている。 (魚、魚か? それにしちゃあ妙な動きをしてやがる。ああ、でも、なんでもいい――) この水牢の孤独から救ってくれるなら。 アヌビスは懸命に願った。神様DIO様、この際悪魔でもなんでもいい、どうか俺をお救い下さいッ! 知ってか知らずか、魚影がアヌビスを咥え上げたのはその直後。 哀れな妖刀の第2の奇妙な物語が始まろうとしていた。 ◆ 『ゲーム』の開始早々から、スクアーロは結構な戦いを強いられた。 黒を基調としたタイトな服装は、至るところじっとりと黒ずんだ染みにまみれ、シャープさを感じさせる風貌に似合わない陰惨な雰囲気を醸し出している。 大女、ヤク中女、時代がかった軍人、死んでいるはずのチンピラ、大猿のような化け物。女たちとピントのずれた軍人はまだスクアーロの持てる知識の中で解釈がつけられるものの、死んでいるはずのチンピラと猿の化け物に関しては、全くもって己の理解の埒外だった。 「まァ――報告がマチガイ、実は死んでなかった、ってのも妥当な考えだけどよ……」 乾いた血痕の残る顔に拭いきれない倦怠感を滲ませて、疲れた足を引きずるようにふらふらと歩きながら、スクアーロはチンピラに関する一考察をぽろりと吐きだした。 数瞬たって、いつもの相槌が無いことに気づく。ああ、またやってしまった―― ――ティッツァ。 声に出さずに愛称を呼んだ相棒は――いない。半身のように行動を共にしてきた相棒は、スクアーロの隣にはいないのだ。 静かに流れる川と、川を越えて遠く薄闇に浮かぶ景観は、確かに慣れ親しんだローマのものであるはずなのに、右手に広がった砂の気配混じる異国の町並みがそれを否定する。 ――ここは――何だ? ひとつだけ判っているのは、この『ゲーム』において、死は限りなく近しい隣人であるということ。ひとつ選択を間違えば、纏わりつく死神が嬉々として大鎌を振るうだろう。 ――死ぬわけにはいかねぇ。 何かを成し遂げて戴く死と、何も遂げられぬまま与えられる死――どちらが良いと問われれば、どちらもごめんだとスクアーロは吠えるだろう。己が望むのは相棒と掴む栄光。そのために、クズみたいなゴロツキから、がむしゃらに親衛隊という地位まで上ってきた。 知恵も気も回るが非力な相棒が、こんな凄惨なゲームに巻き込まれているなど考えたくはない。だが、巻き込まれている可能性は否定できない。与えられるもので確認するというのも癪な話だが、せめて名簿とやらで安否を確認しなければ納まらない。 相棒が不在ならば、あの老人の甘言に乗ってやるのも構わない。あの老人が『ボス』だろうがそれとも代理の一幹部だろうが、試されているのなら力でねじ伏せて示すだけ。 万が一どこかにいるのならば、一刻も早い合流を。頭の切れる彼ならば易々と死にはしないと信じているが、理不尽な暴力の横行するこのゲームで彼の非力さは格好の的だろう。 ――情報が、必要だ。 しかし、殺戮の現場となったそこらを歩き回ってみても人の姿は見かけなかった。あるいは、スクアーロ自身に運がなかったのかもしれない。 いつ何時、誰から襲われるかもわからないこの状況で、身を守ることを優先するのは必須事項だった。ゆえに、スクアーロは『川』を選択した。 あの通りにあった水たまりは局地的な雨がもたらしたもののようで、散策するにつれて地面は乾いたものになっていた。 しかし、川であれば話は違う。地図に記されているとおりなら、川にさえ沿って動いていればある程度のアドバンテージを持てることに違いは無い。 それゆえの『川』――しかし、その選択が間違いだったのか。スクアーロは疲れたように息を吐く。ひとりきりの放浪とは、こんなにも遣る瀬ない疲労を伴うものだったのか。 (孤独、か……) ひとつきりの足音にすら気が滅入る。化け物に打ちすえられた体が鈍痛を訴える。誰でもいい、何でもいい。この無限にも思える錯覚の孤独から救い出して欲しい。 そんなとき、遠くに何か重い音が聞こえてきた。何かを打ち合うような金属の音。重低音の怒号のような音。 スクアーロは疲労に鈍る足を急がせて、音の震源地に向かった。何がおこっているのかを確認できるだけで上等だった。 そして辿り着いた対岸、周辺に待ち伏せなどの気配がないことを確認してから、スクアーロはおもむろにクラッシュを発現させた。 ◆ その死体を見つけたのは、全くの偶然だった。 夜闇に加えてうすら濁った水底は、ぱっと見て何が沈んでいるのかもよくわからない。石かもしれないし、単なる水草の影かもしれない。 スクアーロはまず『音』の正体を確認しに行った。少々距離はあったが、遠目に確認できるくらいには近寄れた。 クラッシュを水面に浮かばせて打ち合う重低音の元を探して見れば、開けた場所で大柄な影がふたつ、すさまじいスピードで打ち合っているのが見て取れた。何やら怒鳴り合っているのは聞こえたが、内容までは聞き取れない。 相棒でないなら別にどうでもいいと、クラッシュを沈ませて戻そうとした矢先。流れが妙に淀んでいる水流を発見した。濁った水に微かに混じる血の気配に、スクアーロは瞬間的に身構えつつ慎重にクラッシュを進ませた。 ――死体か? 死体それ自体には別段なんの感慨も沸かないが、それが相棒でないかどうかは別問題だった。自然と湧きあがる最悪の妄想を振り払いつつ、スクアーロはじっくりとその死体を検分し始めた。 体の前面から沈んでいるせいで顔までは覗けない。熟れきって弾けた果実のようにぱっくりと割れた中身すら覗く後頭部は、加減をしらない子供がオモチャを叩きつけて壊したような有様にも見える。 ――良かった、ティッツァじゃあねえ。 服装といい、髪色といい、この死体は単なる他人だ。沈んだ死体が相棒ではなかったことに安堵し、他に何も無いか確認のためにクラッシュを一回りさせたときだった。 ――あぁ、なんだありゃあ? 死体の傍というには少々離れたところに、一本の刀が沈んでいる。この死体の所有物だったものか、それとも殺害と共に証拠隠滅とばかりに投げ捨てられたものか。 夜闇に加えてうすら濁った水底においても輝きを失わない見事な抜き身が、妖しくギラついているようだった。 少し迷って、あるものは貰っておくかという結論に達する。スタンド能力一本で、何が待ち受けるかもわからないこの先を渡りきれるはずもない。 そう、スクアーロは武装という意味においては丸腰だった。だいたいにおいて、スクアーロのランダム支給品とやらはハズレの部類だったのだ。 限定的とはいえ、攻撃にも索敵にも幅広く応用の効く能力を保持していたからいいようなものの、自身のデイパックから出てきたのは最低限の備品を除けば『アスパラガスに英語辞書を巻いたもの』と『英単語カードのコーンフレーク』だけ。 川縁でデイパックを改めた際、メモかなにかかと思って開いた紙の中からそれらの料理が出てきたとき、スクアーロは場違いな悪寒に総毛立った。 温かな湯気と丁寧に整えられた見た目から滲む、異常な妄執みたいなものがひたすら気色悪かった。出したその場に放置して、逃げるように去ったものだ。 護身のための武器として、刀は甚だ時代錯誤の感が拭えないが、それでも無いよりマシだろう。 そうして、クラッシュで刀剣を拾い上げた直後だった。 ――た、助かったァァァァァァァァァァァァ!! 大音量で聞こえた声に、スクアーロは焦って周囲を見渡した。だが、辺りの闇には何かがいるような気配はなく、ただただ声だけが響いている。 ――オイ、早く俺を引き上げてくれェーッ! こいつは一体、何を言っているのか。察しのつかないスクアーロが尚も辺りを見回していると、焦れたように口早に声が響き渡った。 ――お前だお前、『鮫』の本体ッ! 水ン中じゃあ錆びちまうよォー! そうして、ようやくその声が己自身にしか聞こえていない――正しく言うなら、音にすらなっていない――ということに、スクアーロは気がついた。クラッシュが咥えていた『刀』を放すと、途端にその声は聞こえなくなったからだ。 「い、一体何だってんだ……?」 待てど暮らせど、あれほど喧しかった声は聞こえない。おそるおそる、もう一度クラッシュにその刀を拾わせる。すると、今度は泣き声のような哀れがかった声が響き渡った。 ――た、頼むよォーッ 拾い上げてくれェーッ! もう水の中はコリゴリなんだあッ! どうやら、この奇妙な声はこの刀から発せられているらしい。ますますスクアーロの知識と理解から遠のいているが、実際起こっているからには現実を受け入れる他ない。 それに、武器らしい武器は手に入れたい。若干悩んだスクアーロだが、結論は変わらなかった。 そして鮫と刀の奇妙な物語が始まる。 【アヌビス神 復帰】 【C-4 ティベレ川河岸・1日目 黎明】 【スクアーロ】 [スタンド] 『クラッシュ』 [時間軸] ブチャラティチーム襲撃前 [状態] 脇腹打撲(中)、疲労(中)、かすり傷、混乱(小) [装備] アヌビス神 [道具] 基本支給品一式 [思考・状況] 基本行動方針:ティッツァーノと合流、いなければゲームに乗ってもいい 1:まずはティッツァーノと合流。 2:この喋る刀は一体なんなんだ? [備考] ※スクアーロの移動経路はA-2~A-3へ進んだのち、川に沿って動いています ※川沿いのどこかに、支給品である料理が放置されています 支給品情報 『アスパラガスに英語辞書を巻いたもの』……4部で康一に出された由花子の愛情料理。見た目はアレだが味は美味しい……かもしれない。 『英単語カードのコーンフレーク』……4部で康一に出された由花子の愛情料理。そもそも単語カードは『コーン』ではないという突っ込みは野暮だろうか。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 前話 登場キャラクター 次話 043 デッドマン・ウォーキング スクアーロ 074 どうぶつ奇想天外ッ!
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111 インヴォーク ◆QO671ROflA その男・魏志軍は、極端なまでに疲弊していた。 あの突飛な殺し合いの開幕宣言から数時間足らずの間にも、彼は数々の戦闘行為を繰り広げて来たのだ。 少なくともここまでの戦績としては上々と謂えよう。 現に彼はここまでに全参加者72人中2人の殺害に成功し、数多くの所持品の確保にも成功している。 尤も今日の朝方に流れた広川の《定時放送》によれば、魏が1人殺害した時点での死者数は16人であり、少なくとも15人が魏以外の何者かに殺されているのだが。 そんな魏も自身の本命にして憎き仇敵であるBK201こと《黒の死神》との遭遇は依然として果たせずにいた。 (今頃あの男は一体何処で何をしているのだろう。 このままでは黒の死神との遭遇以前に野垂れ死ぬかもしれない) 疲弊しきった魏志軍の脳裏に倦怠感にも似た不安が過った。 ■ 彼の第三の支給品にして先の戦闘で最大の戦力となった《水龍憑依ブラックマリン》なるこの指輪は、水と接する事で本領を発揮するらしい。 しかし魏の手元には、既に攻撃に転用出来るだけの飲料水など残っていなかった。 飲料水は大部分を飲み干し、その上、奪った飲料水の1つは容器ごと破裂してしまっている。 魏の契約能力“物質転送”の本質は「自傷行為」にある。 その自身の血液を媒介とした特殊な能力が故に、考えなしの無暗な契約能力の連続使用は出来ず、彼としてはこのブラックマリンを戦闘で重用する事を決めていた。 そうともなれば彼の目標は容易に定まる。 それは彼の脳裏を過った最も合理的なプランであり、疲弊を押し切り黒に対する執念が勝ったが故の判断。 一刻も早く水源を見つける事だった。 ■ 水源の発見は案外容易なものだった。 どうやらここは地図で見たF~H南部を流れる河川の下流に位置するらしい。 辺り一面には雑木林が生い茂り、まさに自らの位置情報のカモフラージュも可能な休養を取るには最適のスポットであり、同時に死角の多い奇襲を仕掛けるにも最適のスポットであった。 しかし、それは当然の事ながら逆のパターンも有り得る。 いくら水源付近と言えど、既に満身創痍同然の魏が他のゲーム賛同者と対峙したなら高確率で敗北。すなわち殺されるであろう。 ましてやその相手が《黒の死神》ならば、それこそ最も忌避すべき事態だ。 契約者・魏志軍はただただ途方に暮れる。 ひとまず辺り一面に生い茂る樹木に腰かけた魏は、ふと先の戦闘で手に入れたあの《黒の死神》に良く似た男の支給品らしき帝具に目をやる。 先の戦闘の様子から察するに、この帝具は能力研究所にあったワープ装置と同じような効果を持つのは間違いない。 使用用途さえ分かれば彼の契約能力とブラックマリンの特性上、最大の防具に変貌するだろう。 魏はその帝具に手をかける。 しかし何ら変化は現れなかった。やはりこの支給品の説明書が奪ったディバックから発見出来なかったのは痛かったようだ。 (この帝具が転移現象を引き起こす直前に紫を帯びた対極図が見えましたね……) 魏はその帝具シャンバラをスタンプを押すかのように空中で軽くプッシュする。 どうやら魏の読みは的中したらしい。 その場に滔々と浮かび上がった対極図はあの時視認した物に相違ない。 (これは一度セット出来ればこの対極図のポイントまで瞬間移動出来るのではないか) この魏の推測は、その直後から何度も繰り返された数多の実験で明確なものとなった。 ■ この瞬間転移の帝具の使用用途を理解した魏は歩みを進めた。 コンパスによる位置関係的にも、やはり現在位置は支給された地図に書かれている河川の下流と見て間違いない。 そうともなれば、この付近にはカジノがあるはずなのだ。 仮に進行方向が間違っていたとしてもこの付近はジュネス等の相当数の施設が密集している。 この転移帝具さえあれば、カジノ・もしくは他の施設で休養を取ったとしても、万に一つ敵に侵入された際にはさっきセットした水源の対極図のポイントまで瞬間転移すればいいのだ。 休養を取って万全のベストコンディションを整えた上で水源まで移動出来れば、たとえ相手が大人数だとしても彼には十二分に勝機はある。 魏は不釣り合いながらも、先の戦闘で疲労しきった右足を引き摺りながらカジノを目指した。 予想に反してカジノはすぐに見つかった。 寧ろこの短距離でカジノを発見出来た事は、シャンバラに長距離制限が設定されている事実など気付ける筈もない彼にとっては好都合なのかもしれない。 いざカジノの室内に入ると、そこには魏の想像していた光景とは全く異なり、賑やかさには欠ける物静かなアミューズメントエリアが奥へ奥へと広がっていた。 どうやら照明こそ付いているものの、デジタル系統のアミューズメント機器に電力は1つたりとも供給されていないらしい。 それ以前に、誰一人として他者がいない現状こそがこの不気味な空間に拍車をかけていた。 魏は少しずつ歩調を早めていく。 道中で発見したビリヤードのキューやダーツの矢など戦闘で使用出来そうな備品は全てディバックに詰めた。 ただでさえより殺傷能力の高い武器を欲する彼にとっては、有効価値のある物は何であろうと確保しておきたかったのだ。 ■ 長い1階の連絡通路の小径を駆け抜け、魏はようやくエレベーターを発見したが、どうやらこれにも電力は供給されていないらしい。 魏は溜息も吐きながらも、やもなく足を引き摺りながらも隣にあった階段を上る。 それ以外にも上の階に上がる方法はあったのだろうが、疲弊して思考が鈍っていようと曲がりなりにも“契約者”の端くれである魏は合理性を重んじたのだ。 ようやく辿り着いた2階は、1階以上の静けさの漂う謂わばスタッフルームのようだった。 ここでも魏に些細な幸運は訪れていた。 真っ先に魏の目に入ったのは「救護室」のプレートである。 彼は即座に救護室のドアノブに手をかける。 幸いにも能力研究所とは違い、鍵はかかっていないようだった。 尤も万が一鍵がかかっていても魏の契約能力を持ってすれば、この扉の破壊は容易そうであったが。 救護室内には運良く照明とその他の電気も供給されているらしく、更には簡易な医療器具と薬品が揃いに揃っていた。 所詮はカジノの備品だと思っていた魏だったが、自分の想像以上に充実する医療用のショーケースを目にし、若干ながらも感心した。 マフィアの幹部であった魏には当然ながら最低限の医療知識は備わっている。 薬品のショーケースをその場にあった懐中電灯で叩き割った魏は、数々の戦闘負った傷に応急処置を施していく。 (ここにある医療器具もおそらく今後の局面で役に立つかもしれませんね… 特にこの鎮痛剤は確保しておきたいところ) 魏は量こそ多くはないものの、1階の備品よろしく医療品を全てディバックに詰め込んだ。 大量に完備されていたビタミン剤を服用した魏は、救護室のベッドに寝そべり、今後の計画を練り始めた。 少なくともこの時、魏志軍はこのカジノこそが歴戦を勝ち抜いて来た対主催者達の集合場所となっていた事など知る由もない。 【H-7/カジノ2階救護室/1日目/午前】 【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】 [状態]:疲労(大・回復中)、黒への屈辱、鎮痛剤・ビタミン剤服用済み、背中・腹部に一箇所の打撃(ダメージ 中・応急処置済み)、右肩に裂傷(中・応急処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕 [装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲(星空凛の支給品) [道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器)、ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)、パンの詰め合わせ@現実(プロデューサーの支給品)、流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(星空凛の支給品)、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ(星空凛の支給品)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×5、ビタミン剤の錠剤@現実×12(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品) [思考・行動] 基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する 0:まずは全身の疲労を回復させる。万が一、休養中に攻撃を受けた場合はあらかじめセットした水源にシャンバラで移動する。 1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。 2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。 3:合理的な判断を怠らず、少なくとも休養中の現在は消耗の激しい戦闘は絶対に避ける。 [備考] ※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。 ※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。 ※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。 ※スタンドの存在を参加者だと思っています ※閃光を放ったのは誰かは知りません。 ※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。 ※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。 ※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。 ※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。 ※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。 時系列順で読む Back No brand people Next パラサイト・イヴ 投下順で読む Back ぼくのわたしのバトルロワイアル Next バラサイト・イヴ 101 間違われた男 魏志軍 133 汚れた指先で